2017年04月12日

4月のお話

「タンポポのごあいさつ」     作・片岡輝  絵・花之内雅吉


  おるは元気な男の子です。もし、どこかの街でどろんこになって遊んでいる子を見かけたら名前を聞いてみてください。きっと、


「ぼく、かおるだよ」と答えて白い歯をだしてにこっと笑うことでしょう。


 かおるにかおるという名前がついたのは、かおるが四月に生まれたからです。四月には、まるでクレヨン箱をひっくり返したようにいろんな花がいっせいに咲き始め、春の香りが透き通った、とりわけやさしい風にのって、人びとの鼻をくすぐります。


 生まれたばかりの男の赤ちゃんをのぞきこんで、鼻の下をなが〜くしていたパパとママの鼻にも、花の香りがとびこみました。


「いいかおり! ほら、わたしたちの初めての赤ちゃん、これが木蓮のかおりですよ」

「木蓮か。うん、もくたろう、いや、れんたろうという名前にしよう!」

「あら、わたしは、かおるという名前にしようと、今、考えていたところよ。ね〜、かおるちゃん、かおるでちゅよね〜」

「ほぎゃ〜」


 こうして、かおるという名前がきまりました。名前のせいか、かおるは、花が大好きです。男の子だからって、花が好きになってはいけないなんてきまりはありませんものね。


 今日もかおるは朝からタンポポの花をさがしています。タンポポの花って、そりゃあ、いろんなところに咲いています。庭の片隅、道路のはじっこ、階段のコンクリートの割れ目から顔を出している頑張り屋もいます。


タンポポの花の茎を折ると、白いミルクのような汁が出ます。かおるがおそるおそるなめてみると、甘いようなちょっぴり苦いような味がしました。指と指のあいだにつけてこすると、ねばねばして糸をひきます。「ばか、りこう、ばか、りこう…」といいながら花びらを一つ一つむしって行くと、おばかさんかおりこうさんか、占うことが出来ます。ままごとの材料にだってなります。そんなタンポポで遊ぶのが、かおるは大好きでした。


         ぼうしのタンポポ.jpg


本目のタンポポを見つけたとき、赤いスクーターに乗ったおじさんがやってきて、「このへんのアパートに住んでる清水さんちを知らない?」とかおるに尋ねました。かおるはだまって首を横にふると、「しらなくて、ごめんなさい」というかわりに、タンポポの花を一本さしだしました。

「おう、タンポポか。子どものころを思いだすなあ。ありがとう!」

おじさんが胸のポケットにさすと、タンポポはまるで金メダルのようにキラキラとかがやきました。

赤いスクーターが角をまがって行ってしまうと、「そうだ! ぼく、タンポポをみんなにとどけよう!」かおるは、タンポポの花をにぎって、かけだしました。


ず、みっちゃんのお家です。キンコン…チャィムがなります。

「あら、かおるくん。みっちゃんはいま、ピアノのおけいこにいってるのよ」とおばあちゃん。かおるがタンポポの花をさしだすと、

「まあ、すてき! 花瓶にさしておきますね。あとで遊びにいらっしゃい」

 つぎは、お隣です。ビー・ビッビー。

「だれだと思ったら坊やかい。大人は忙しいんだからいたずらしてはいけないよ」

かおるの鼻先でピシャり、ドアが閉まりました。かおるは出しそびれたタンポポの花をポストに入れて次へ向かいました。

                                    タンポポ.jpg


ントントン。はげはげペンキの古い木のドアをノックすると、ギーツとドアが開いて、しらがのおばあさんが出てきました。


「おやまあ、かわいいお客様だこと。お客さんが見えるなんて、何年ぶりのことかしら。おじいさん、おじいさん、去年の春飛ばしたタンポポのたねが、きれいな花を咲かせて、かわいいお客さんを連れて帰ってきましたよ。さあさあ、どうぞおあがりくださいな」


 かおるが部屋に入ると、ガラス戸ごしに、庭一面に咲いているタンポポの花が見えました。庭では、おじいさんがタンポポの綿毛を春の空へむかって「ふうふうふう…」と、一心に飛ばしておりました。


                            タンポポの綿毛2.jpg
      

   

                                         

posted by 語り手たち at 00:14| Comment(0) | お話の国
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