2017年05月15日

5月のお話

「かぜとかけっこしたら」  文・片岡輝  絵・花之内雅吉

 

 さやかの家は、港町の丘の上にたっています。

そこはちょうど、かぜの通り道にあたっており、

春にはあたたかい南の国からの便りが、町一番に

届きます。今ごろは、北のつめたいかぜと南のあ

たたかいかぜがまるで陣取りごっこでもしている

かのように、この丘めざして吹いてきます。

夏になると、磯の香りを乗せた潮風とんできて、

さやかを海へ誘います。秋には、暴れん坊の台風

が落ち葉の手裏剣をとばして渦巻き忍法でせめて

きます。冬は冬で、鼻のてっぺんがツーンと痛く

なって、涙がでるほどつめたい北風が、お日さま

と鬼ごっこをするのです。

 さやかは、だから町のだれよりもかぜとなかよ

しです。名前だって五月のかぜのさわやかさから

とった、さやかなんですって。これはママから聞

いたはなしです。

  

5月の風.jpg


 さやかは、かぜたちが一年中でいちばんおしゃ

べりで、元気で、それでいてやさしい5月がだい

すきです。ほうら、耳をすませてごらんなさい。

うらの竹やぶで「サヤサヤサヤ」って、さやかを

呼んでいます。それなのに、どうしたことでしょ

う? いつもならすぐにとびだしてくるというの

に、今日はシーンと静かです。

 かぜたちがしびれをきらして、どこかほかへ遊

びに行こうとしたちょうどそのとき、ドアがいき

おいよくひらいて…


「ルルンブルブルブルン、ひこうきですよ!」

両手に風車を持ったさやかがとびだしてきて、

坂道へ向かって走りはじめました。


                両手に風車さやかの飛行機.jpg


 「かけっこならまけるもんか!」

 かぜたちがさやかをおいかけます。おいついた

かぜが、さやかの髪の毛を膨らませ、髪の毛がさ

やかの頭の上で、ダンスを踊ります。さやかをお

いぬいたかぜたちが、今度は向かいかぜになって

さやかの耳元で「ヒュンヒュンヒュン」とうなり、

風車をいきおいよく回します。

 坂道の両側で、つつじの花が応援しています。

のっぽの街路樹てっぺんではカラスが、電線には

スズメたちが並んで見物しています。


 さやかとかぜたちは、一気に坂を駆け下り、四

角にさしかかりました。あ、あぶない!よこから

ものすごいスピードで、男の子のジェット機がと

びだしてきて、「どっかーん!」



 

男の子とゴッツンコ.jpg


 二人の眼から星がとびちり、涙がこぼれ落ちま

した。車や自転車でなくてほんとうによかった!

 「ごめんね。ぼくがとびだしたばっかりにきみ

のかざぐるまをぺしゃんこにしてしまって…」

 見ると、ひだりのエンジンのプロペラがクシャ

クシャです。もうあんなにクルクルまわりそうも

ありません。かぜたちもすっかりしょげて、ソヨ

とも吹きません。

 「かわりにこれでゆるしてくれる?」

 男の子はピーピー草でつくった草笛をさしだし

ました。さやかの眼がまあるくなりました。


            すずめのてっぽう.jpg


 「どうやったらおとがでるの?」

 「おもいっきりいきをすいこんで、やさしくや

さしくふいてごらん」

 教わった通りに吹くと、さやかの息が、草笛を

「ピー」と鳴らしました。

 「うまいうまい、そのちょうし!」


 ピーピー草は、スズメの鉄砲ともいい、穂を取

ると茎が草笛になります。

 「ピーピーピー、ピッーピッーピー…」

 うれしくなったかぜたちが、草笛の音を元気い

っぱい5月の空へはこんで行きます。

 草笛のおれいに男の子にあげた風車も力いっぱ

い回ります。

 「サヤサヤ、ピーピー、サヤサヤ、ピー…」

 さやかは、5月のかぜがだいだいだいすきです。


          四季の風.jpg


posted by 語り手たち at 21:02| Comment(0) | お話の国
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