「でんでんむしのひみつ」
文・片岡輝 絵・花の内雅吉
でんでんむしは、いったいどこからやっててきて、どこへきえてしまうのでしょうか?雨が降ると、ふってわいたかのように姿をみせ、晴れるといつのまにかいなくなってしま
うのですから、まるで忍者みたいです。
淳はでんでんむしが大好きです。誕生日が近くなって、テレビが「今日も全国的に雨でしょう」と放送ようになると、朝から庭をかけまわって、でんでんむしを集めてきます。
淳の秘密の箱のなかには、親指みたいに大きいものから、ごまつぶのように小さいものまで、「ちゅうちゅうたこかいな、ちゅうちゅう…」と、14匹もいるんですよ。
淳は14匹を、レタスとキュウリでかっています。おかずのサラダをのこしておいて、ジーパンのポケットにつこんで秘密の箱まではこんでくるので、ジーパンはマヨネーズのしみだらけ。今日もポケットからとりだしてでんでんむしに食べさせようとしたとたん、あとをつけていたお兄ちゃんが、「みーつけた。なにかくしてんだ? …なーんだ、でんでんむしか。淳、秘密を教えてやろう。でんでんむしの正体は、宇宙人なんだ。背中にしょってる家は、ほんとは宇宙船なんだぞ。でもだれにもいうなよ」
そういえば、でんでんむしの渦巻型の家は、お兄ちゃんの本で見たUFOの絵そっくりですし、つつくと引っ込める2本の角は、宇宙服のアンテナみたいです。
「ぼく、14人も宇宙人を飼ってるんだ。だれにもわたさないぞ」と心に誓ったとき、「この2匹、ちょいとかりるぜ」と、キュウリでお食事中の〈ジャンボ〉と〈でかでか〉をお兄ちゃんがつまみ上げて、あじさいの葉っぱの上に並べました。
「なにするんだよ。かえしてよ」
「とりゃしないよ。並べて競争させるのさ。宇宙人の大レース!」
つぎの日は、梅雨にはめずらしく晴れたのに、淳の2つの眼から大雨が降りました。あんなに大事に飼っていた14匹がのこらずカラカラに乾いて死んでしまったのです。レタスもキュウリもしなびてころがっていました。
淳は、箱をかかえて庭へ飛び出すと、穴を堀りはじめました。
「ごめんね。ごめんね。いま、おはかにうめてあげるからね」
すると、お兄ちゃんがやってきて、淳の手をとめて、こういいました。
「でんでんむしは宇宙人だって教えただろう。宇宙人はそんなにかんたんには死なないんだぞ。宇宙船を空に近いところに並べておくと、だれも見ていないときに宇宙へ帰っていくのさ」
淳は、14匹のでんでんむしを、ベランダの塀の上に、ていねいに一列に並べ、「ぶじにうちゅうに帰れますように」とおいのりしました。
夜から朝にかけて、雨が降りました。淳がベランダに出てみると、でんでんむしは、もう影も形もありません。そして、14匹を並べて置いた塀の上には、キラキラ光る14本の銀色の線が、不思議な形を描いて残されているのでした。