2017年08月15日

8月のお話

「おじぞうさんのぼうし」

片岡輝・文 花の内雅吉・絵

    きどき思い出したように吹いてくる風といっしょに、風鈴が夏のうたをうたいます。
  八郎は朝からギコギコ、ノコギリと格闘しています。大きな板は切られるのがいやなのでしょうか。だだをこねて逃げ回るので、ノコギリのはがあっちへひっかかり、こっちへひっかかり、なかなかしごとがはかどりません。それでもなんとか2枚は伐り終えて、あと1枚切ったら、こんどはトンカチでくぎを打つ番になるのです。八郎の頭の中には、もうしっかりと設計図が描かれいています。
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  り終えた3枚のいたを八郎はコ≠フ字型に組み合わせてくぎで打ちつけました。横っちょにはみ出したくぎの先も、とちゅうでく≠フ字に曲がってしまったくぎの頭も、トンカチでしっかりと打ち込みました。そのとき、八郎は左の人差し指をトンカチで思いっきりぶって、あずきほどの血豆つくってしまいました。でも、今日はべそひとつかきません。八月の太陽がぎらぎら笑っています。
  八郎はコ≠フ字型の板をかかえて路地を駆けぬけ、表通りの四つ角にやってきました。麦わら帽子の上にとんぼのアキアカネがとまっています。四つ角では、おじぞうさんがカンカン照りの太陽に焼かれて、八郎を待っていました。
おじぞうさんのぼうし2.jpg


  「おそくなってごめんね。まいにち、あついなか、ありがとう。さあ、これをかぶってみて」
  設計図通り、コ≠フ字の木のぼうしはおじぞうさんの頭にぴったりでした。八郎が朝から汗だくでつくった木のぼうしをかぶって、おじぞうさんは涼しそうです。
  八郎が生まれた8月には、セミとり、スイカわり、ぼんおどり、縁日、花火大会、プール、山登り…と、楽しみがいっぱいで、毎日がまるで誕生日のようです。

  が夕日でまっかに焼けて、今日は待ちに待った縁日です。八郎が100円玉をしっかりとにぎりしめながら、四つ角のおじぞうさんの前を通り過ぎようとしてふと見ると、「あれ? 木のぼうしかぶってないぞ」
 でも、いまはそれどころではありません。
お宮のほうからㇷ゚―ンと縁日のいいにおいが八郎の鼻をくすぐります。
 「あとでさがしてあげるからね!」
 そういいのこすと、八郎は縁日へダッシュ。
 
        おじぞうさんのぼうし3.jpg

  電球に照らされて、ソース焼きそばがジュ―ジュ―とおいしそうな歌をうたい、焼きイカがダンスを踊っています。チョコバナナも綿あめも「おいでおいで」をしています。
ハッカあめの笛が「八郎くん、吹いてごらん、甘くってスース―するよ」と呼んでいます。
 でも、食べ物は食べてしまえばそれっきりです。「ライダーお面がいいかな? ヨーヨーもたのしそうだな…」と、あれこれ迷いながら行ったり来たりしているうちに、八郎は金魚すくいの前にでました。
 「へい、いらっしゃい」と、腰を浮かせたおじさんのお尻のしたに、おじぞうさんの木のぼうしがチョコンと椅子の代わりに置いてあるではありませんか。
 「あのー、それ…」と、八郎が指さすと、
 「まいど、ありー、100円いただきますよ」というわけで、薄い紙を張った網を2本もらい、八郎は金魚すくいにチャレンジすることになりました。


おじぞうさんのぼうし4.jpg

             
  そうは、たくさんの金魚で満員電車なみの混みようです。八郎はとりわけ元気な出目金をねらうことにしました。でも、相手は一筋縄ではいかない大物です。1本目の網は見事に破られてしまいました。八郎が2本目の網ですくおうとしたとき、おじぞうさんが水槽の底にあらわれて、出目金を手招きしました。すると、出目金は急におとなしくなって、おじぞうさんの左手の上に横になりました。
  「いまだ!」八郎が出目金を見事にすくい上げたとき、おじぞうさんはもう姿を消していました。
 「わー、わしの可愛い出目金が…」
頭を抱えているおじさんを見ながら、おじぞうさんのぼうしをお尻に敷いたバチがあたったのかもしれないと、八郎は思いました。

        おじぞうさんのぼうし5.jpg
posted by 語り手たち at 20:02| Comment(0) | お話の国
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