おはなしの国 シリーズ2 詩を語る2
ある大人が書いた
「心」への手紙
片岡輝 文
新田まゆ 絵(刺繍)
あなたに初めての手紙を書いています。
考えてみれば、あなたとは、私が生まれたときからの長いお付き合いなのに、こうしてあなたに向かって私の気持ちを書くのは、今日が初めてのことなんですね。
まだ、字も書けないほど幼かったころ、あなたと私は大の仲良しでした。あなたが感じるままに、泣いたり笑ったり、すねたり怒ったり、鼻唄を歌ったり叫んだり、しょんぼりしたり威張ったり……気ままにのびのびとふるまっているうちに一日が過ぎて行き、目が覚めると、もう、次の日の朝になっているのでした。そのころは、あなたが私のなかに住み着いていることなど、考えてもみませんでした。
あれは、たしか小学4年生の2学期のこと、クラスに転校生がやってきて、私の隣の席に座ることになり、その子が、私の眼をまっ直ぐに見て、にっこりと笑いかけてきたのです。私の心臓は、100メートルの徒競走をした後のようにドキンドキンと激しく打ち始めました。顔も真っ赤になっていたに違いありません。でも、
私は、みんなに本当の気持ちを見破られないようにツンとそっぽを向いてしまったのです。仲良くなりたい、友達になりたいというあなたの願いに、なぜか素直になれなかったのです。その時から、あなたと私の戦いが始まりました。私は自分の気持ちをおさえ、感じないふりをし、隠して、あなたを無視しました。そうすることが大人になることだと思いこみ、あなたに勝って大人になりました。
でも、私は、決して幸せではありません。あなたと仲良くしている子どもたちに出会うと、私が力づくでねじ伏せたあなたが、むくむくと起き上がって、自由に羽ばたこうともがいているのを感じます。もう一度、あなたの声の素直に耳をかたむけて、いろいろなことをやり直してみたいと思います。この手紙と、私の切なる願いが、あなたに届きますように。
こころのありか
こころって どこにあるの
ママにきくと
「さあね、パパならしってるかもしれないわ」
そこで パパにきくと
「はて どこだっけ そう せんせいならおしえてくれる」
そこで せんせいにきくと
「そういうことは ほんをよんで しらべると わかる」
そこで ほんをよむと
「むかしのひとは かんがえた こころは しんぞうにある と
べつのひとは こういった こころは あたまのなかにある と
けれども しんぞうを かいぼうしても
あたまを Xせんで のぞいてみても
こころのありかを つきとめることは できなかった」
そうか そうか そうなのか
こころのありかは なぞなんだ
でも あるってことは たしかだよ
だって だれかを すきになると こころが ざわざわ さわぎだすんだもん
こころ こころ こころさん
どこにあるかは しらないけれど
あなたがあって ほんとうによかった
*この詩は、鈴木憲夫作曲の同声合唱組曲として、音楽之友社から出版されています。
●じーじの80歳の誕生を祝って、似顔と80を刺繍しました。
小学2年生の時の作品です。