2022年05月20日

お話の国

石つぶて

片岡輝 詩

〜「石コ賢さ」と呼ばれた少年の日の宮沢賢治に


石を拾う

いくつもいくつも拾う

ふくらんだポケットの重みが

舞い上ろうとする少年を

地上にひきとめる


どっどど どどうど どどうど どどう

あまいりんごも吹きとばせ

すっぱいりんごも吹きとばせ

どっどど どどうど どどうど どどう


どんな石にも

時間が息をひそめていると

少年は思う

石は星の原始を覚えているだろうか

風化して砕け散る明日(あす)

予感しているだろうか


イーハトーブの山河で

石を拾った石コ賢さは

ポケットの石を

一つ一つ燃やして

人の心に火を灯し

銀河鉄道で

星へ還っていった


どんな石にも

生命のぬくもりがあると

少年は思う


石は愛の芽生えを覚えているだろうか

憎しみのつぶてとなる明日を

予感しているだろうか

ポケットいっぱいの石を

()()へ力の限り投げ上げる  

石が流れ星となって

降りそそぐその前に

少年よ

地平に向かって走れ


どっどど どどうど どどうど どどう

青いくるみも吹きとばせ

すっぱいかりんも吹きとばせ

どっどど どどうど どどうど どどう


石に興味を 失ったとき

少年はいつか大人になる


posted by 語り手たち at 22:15| Comment(0) | お話の国
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