「物語を語ること」
─── ル=グウィンの至言によせて
NPO法人語り手たちの会 理事長 片岡 輝
「物語を語ることは、意味を獲得するための道具として、わたしたちがもっているものの中でもっとも有効な道具のひとつだ。物語を語ることは、わたしたちは何者なのかを問い、答えることによって、わたしたちのコミュニティをまとめるのに役立つ。またそれは、わたしたちは何者なのか、人生はわたしに何を求め、わたしはどういうふうに応えられるのかという問いの答を知るのに、個人がもつ最強の道具のひとつだ。…文学的な短編や長編の複雑な意味は、その物語そのものの言語に参加することによってのみ理解可能だ。…それは芸術作品は頭だけで理解するものではなく、感情や体そのものでも理解できるものだからだ。…
物語を頭だけでなく、心と体と魂で読むならば、その物語はあなたの物語になる。それはあなたに美を提供するだろう。あなたに苦痛を経験させるだろう。自由を指し示すだろう。読み直すたびに違うものを意味するだろう。…芸術はわたしたちを解放する。そして言葉の芸術は、わたしたちを言葉で言えるすべてを超えた高みに連れていくことができる。…
(子どもたちに)本を開きながら『ほら、新しい世界へのドアが開かれた。わたしはそこで何を見つけられるのかな』と考えるように教えられているなら、どんなにかよいだろう。」註@
物語に魅せられた一人として、そんな大人になれたらと願わずにはいられない。
註@『いまファンタジーにできること』ル=グウィン
(谷垣暁美・訳 河出文庫 所在 p.218|p.219 p.221 p.222)