2018年11月06日

太陽と月の詩 222号 巻頭言



夢を語るーストーリーテリングセンター(語りの広場)

愛媛県松山市光藤由美子


数年前、松山おはなしの会で長くともに活動し、みかん文庫をしていた友人が亡くなりました。その文庫に通っていた小学六年生の子どもが、語ってもらったお話や好きだった本を織り交ぜて紙芝居「文庫のおばあちゃん」を制作してくれました。子どもの心にお話や本、そしてそれを手渡してくれる人が、忘れられない大事な存在として深く刻まれていることを改めて、感じさせてくれました。大人から手渡された本やお話は、子どもの生きる力となって、未来につながっていくのだということ、私たちはそういう大事な種まきをしているのですね。残念なことに、文庫は閉じなければならなくなり、大切に集めてきた、選書された数千の絵本児童書の数々は、分散してしまいました。本に囲まれて、お話が語られてきた場所がなくなるということは、これから年老いていく私たちにとって心残りです。

イギリス、スコットランドのエジンバラには、ストーリーテリングセンターがにぎやかな通りの、十六世紀の建物の横にあります。ステージもある立派な建物は、二〇〇六年エジンバラ市、教会、企業寄付、宝くじなどの基金で設立され、エジンバラ芸術祭にも利用されています。またスコットランドのストーリーテリングについての情報や民話集など、手に入れることが出来ます。以前は、夏の間、プロのストーリーテラーがいて、ふらっと来た観光客にもお話を語ってくれました。

語り手たちの会は、昨年度四十周年の記念事業として、大きな夢と希望に向かって次の世代の語り手を育てるというイベントをこなしてきました。次はどういう方向に行くのか、私の夢想は続きます。語りを長く続けてきた私が描く一つの夢は、蔵書もあるおはなし広場のような語りのセンターがあればなあということです。語りや昔話関係の本が集められて、貸出(昔あった貸本屋でもいいかも)もでき、また購入もでき、本をそこで読むこともできる、文庫のような、語りの広場は、いかが?多くの方と未来の夢を共有できることを願って!


(みつどうゆみこ会員・松山おはなしの会)

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2018年08月02日

太陽と月の詩 221号 巻頭言

人間への贈り物「想像力」

東京都杉並区 池田香代子

三歳九カ月の孫娘が芝居小屋デビューをはたした。舞台に上がったわけではない。はじめて見物したのだ。

ちいさな劇場は、ハイハイの赤ん坊まで含めて、おさない観客でにぎわっていた。演し物は「赤ずきん」と「ブレーメンの音楽隊」。声優たちがパペットを操りながら、舞台いっぱい、にぎにぎしくストーリーを織りなしていく。

つまり、演者の全身が見えるわけだ。片手に装着した赤ずきんやろばの人形が口をぱくぱくさせ、声は演者が出す。このシステムというか、約束事を受け入れた上で、子どもはパペット芝居を楽しめるものだろうか。

そんな杞憂はすぐに消えた。おおかみが出てくると、孫はシートの上にうしろ向きに立ちあがり、背もたれをつかんで顔だけ舞台のほうに振りむき、いっしんに注視している。怖かったのだ。でも、おもしろくて目が離せないのだ。

ここで、わたしは自分の愚かさに気がついた。孫とはいつもお人形さんごっこをしているではないか。ふたりで人形やぬいぐるみのセリフを言いあいながら、架空のお話を楽しんでいるではないか。だったら、彼女がパペット芝居という様式を瞬時に理解しないわけがない。むしろおさない子どもはおとなよりも、虚実のあわいに立ちあがる演劇的なものに没入する能力に長けている、と考えたほうがいいくらいだ。

それにしても、演じられるストーリーを非現実とわきまえながら全身全霊で楽しむことができるというのは、ヒトという生き物に与えられた、いったいどんな恩寵だろうか。目の前の生身の人間や人形が架空の存在になりきって、こことは異なる世界に生きるさまを受けとめるというわたしたちの想像力には、あらためて驚きを禁じ得ない。しかもこの想像力は、言葉をおぼえたばかりのおさない子どもにすでにゆたかに備わっているのだ。

それは、演者からすれば、想像力というよりは憑依の問題なのかもしれない。物語を演じるとは、モノノケが乗り移ってカタルということだからだ。演者は、乗り移られて異世界に命を得る部分と、それを冷静にコントロールするこちら側の部分に分裂し、そのふたつの部分が最良のコラボレーションをするとき、成功を収める。

次は、孫をお話会につれていこうと思う。きっと、声だけで演じられる異世界を楽しむことだろう。ばぁばのお話は、まわりのおもちゃに気が散って、よく聞いてくれない。わたしの語りがへたくそ、つまり依り代として稚拙だということは措くとして。(ドイツ文学研究者・会員)

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2018年05月02日

太陽と月の詩 220号 巻頭言

五十周年へ向けての一歩を踏み出すにあたって 

NPO法人語り手たちの会理事長 片岡 輝

 三月四日に横浜市緑区のみどりアートパークで、谷川俊太郎さんと賢作さんをお迎えして開かれた「青い地球にことばの種を!」は、一年を通して展開してきたNPO法人語り手たちの会四十周年事業の掉尾を飾って、三〇〇人を超える参加者が、明日の語り手たち六名と福島県田村市から招いた子ども語り手七名の合わせて十三名の旅立ちを祝福し、励ます会として、大きな拍手とあたたかい笑顔にあふれました。


 小学生から高校生、保育者までの明日の語り手たちは、会の横浜グループが、福島県田村市の小学生の子ども語り手は、田村市の伝承語り手による田村市図書館子ども語り手養成講座が手塩にかけて育んだ、ともに語りの文化を明日へと伝える役割を担う大切な宝です。


  四月六日付けの東京新聞に、奇しくも同じ四十周年を迎えた児童文学『ズッコケ三人組』(那須正幹著)シリーズの舞台となった広島市西区己斐地区で、ハチベエ、モーちゃん、ハカセの三人組が出没して活躍する「アカツキ書店」「喫茶店・田園」「花山デパート」などのモデルとなった建物の老朽化や店じまいが進み、作者の同級生が作ったグループ「ズッコケ三人組のふるさと己斐」が担ってきた銅像や看板設置やモデル地を巡るツアーなどの活動も、メンバーの高齢化で停滞気味であることから、若い世代が活動を引き継いでほしいという呼びかけが報じられていました。激しく移り変わる時代とともに、人びとの記憶も薄れ、考え方や行動パターンや好き嫌いも変わり、世代から世代へと伝えられてきた歴史や文化や習俗などの伝承もともすれば途絶えがちです。


 戦争体験、ヒロシマ・ナガサキの被爆体験、大震災の被災体験などの語り部の世代交代も進んでいます。その時々を生きた無数の名もなき人々のかけがえのない記憶を次の世代にどう伝えていくかが時代の証言者であり伝承者でもある私たち語り手に求められています。


 歴史修正主義者と称せられる人々が、自分たちの主義主張に都合の悪い歴史的な事実を無かったこととして、都合のいいように書き改めようと画策しています。こんな暴挙を許さないためには、事実を誠実に記録し、語り伝える地道な営みを積み重ねて行かなくてはなりません。明日の語り手の誕生、基礎講座二〇一八の開講、各事業の推進は、会の次なる五十周年へ向けての、明るく希望に満ちた取り組みのスタートです。会員のみなさまの積極的なご参加をお待ちしています。     

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