2014年08月02日

太陽と月の詩 205号

巻頭言

怪談の都・東京
                      兵庫県伊丹市 堀田 穣(ほった・ゆたか)
何かの用で東京へ行かなければならなくなると、俄然、さて今度はついでに何処に寄ろうかと資料を漁りだす。何しろ三大怪談と言われる「四谷怪談」「牡丹灯篭」「番町皿屋敷」いずれも舞台は江戸であり、これら怪談の原型である「累(かさね)」も、江戸がからんだ北関東の話なのである。その伝でいえば徳島はタヌキ、金沢は天狗の都といえる。
そもそも、羽生村で起こった累の悪霊憑依を祓った悪霊(エク)祓い師(ソシスト)、祐天(ゆうてん)上人は、後に徳川将軍家菩提寺である芝の増上寺の大僧正にまで出世した。目黒に祐天寺の地名が残り、東急東横線祐天寺駅があり、また累塚のある祐天寺というお寺が残っているのも、この上人が江戸で有名な偉い坊さんだったからだ。
『東海道四谷怪談』だって、四谷ばかりではない。お岩と民谷伊右衛門が復縁の所帯を持ったのは雑司ヶ谷四家町である。そこから都電荒川線に乗って新庚申塚駅を降りる。お岩通り商店街を歩いて妙行寺に至る。お岩さんのお墓があるのだ。また荒川線に乗りこんで三ノ輪橋駅まで行くと、そこは『東海道四谷怪談』の序章、浅草寺が近い、もっと近いのは吉原大門だが、都電荒川線は「四谷怪談」線だと言っても過言ではない。民谷伊右衛門が最後に討たれる蛇山庵室も、隅田川の向こうである。「四谷怪談」のガイドブックは、塩見鮮一郎『四谷怪談地誌』(河出書房新社)がベスト。
累殺人事件のきっかけは、羽生村対岸の水海道(茨城県常総市)が、鬼怒川、利根川を経て江戸川に繋がり、江戸までの水運が確保され、経済的発展が飛躍的になった事だった。江戸川は小名木川で、隅田川に繋がっている。横十間川に入り少し南下すると岩井橋の所が、「四谷怪談」戸板返しで有名な隠亡堀(おんぼうぼり)だ。怪談はいつも水辺で起こり、水とともにある。「累」のガイドブックは高田衛『江戸の悪霊祓い師』(筑摩文庫)がよい。
( 京都学園大学歴史民俗学専攻教授・本会会員)
posted by 語り手たち at 01:08| 太陽と月の詩

2014年05月18日

太陽と月の詩204号

巻頭言

いま、この時代になにを…
NPO法人語り手たちの会理事長 片岡 輝

『語りの世界』57号「私の語り伝えたい話」を、もうお読みいただいたでしょうか。この特集は、会員のみなさまにお送りしたアンケートへのお答えを基にして編集したもので、会員がいまの時代の空気をどのように受けとめ、何を語り伝えたいと考えたいと願っているかがはっきりと読み取れる内容になっていて、思わず身が引き締まりました。
〈「リュドミーラ・イグナチェンコの話」チェルノブイリ原発事故の悲劇と福島への思いを重ね合わせて。また、愛の強さと力を伝えます〉〈「父と母の話」兵士としてテニヤン島に行き捕虜として米国まで行って一年半後に帰ってきた父と、父の死を信じられなかった母の話。戦争が忘れられつつある今子どもたちに語りたい〉〈「世界で一番のおくりもの」戦争の悲しさ、人の心の優しさを伝えたい〉〈「富田先生の青い目の人形」「磯笛とアリラン」など、自作で戦争の悲劇を伝えていきたい〉〈生れ故郷の方言で土地の伝説や昔話を語りたい。同時に空襲の話なども調べたい〉〈戦争体験を語り継ぎたい〉〈震災(特に放射能汚染で街を追われた人々)の語りを、忘れないためにも〉〈「戦争と平和」憲法改正の動きや特定秘密保護法等、今の日本を憂いで声を上げる必要を感じるから〉〈戦争体験のパーソナルストーリー、3・11の話、四十年あまり住む八王子の民話(今まであまり知らず、子どもたちに伝えていきたいから)〉〈現在の世界、日本の社会状況を見るとき、自分の体験したことから平和や人としての生きがいを語り残したい、私には限られた時間しかない…そんな気持ちで話をしている〉〈「二人亭主」女性の哀しみ、苦しみを通して戦争のない世界の大切さを伝えたい〉〈戦争体験から伝えられているお話。忘れてはならないものとして、今と未来の平和のために〉 
いつか来た道を、わが子や孫たちが二度と再び歩むことのないように、なにを語り、語り継ぐべきか、真剣に考えなくてはならない時に、いま、私たち語り手は立っています。
posted by 語り手たち at 19:01| 太陽と月の詩

2014年02月28日

太陽と月の詩 203号

・巻頭エッセイ

〃アートスタート〃をご存じですか?

鳥取県境港市 足立茂美

 昨年十一月、全国初の「アートスタート全国フォーラム〜とっとり・アートスタート・おひざのうえ二〇一三〜」が、鳥取県米子市で開催されました。0歳から未就学児までの乳幼児を膝の上に抱いて、親子で生の舞台や音楽を楽しむアートスタートが鳥取県内で始まって十余年。これまでの取り組みの成果やその大切さを県内外に発信するフォーラムでした。
 アートスタートは、二〇〇〇年にわが国にイギリスのブックスタートが紹介され、六ヶ月健診時などで赤ちゃんに絵本を手渡す取り組みが始まった頃、乳幼児にも生の舞台芸術(アート)と出会う機会をつくろうと始まった運動です。ブックスタートの芸術版と言えばよいでしょうか。もともとは一九九〇年頃から北欧で始まったものです。初めての絵本との出会いをつくるブックスタートが全国的に急速な広がりを見せる中、アートスタートは、知る人ぞ知るといった感じの広がり方でした。ただ、鳥取県では、その素晴らしさに気付いた人たちによって、官民一体となった取り組みが始まり、この十年間で着実に県内各地に広がっていき、成果をあげてきました。
 アートスタートは、公民館、保育園、集会所などが小さな劇場になります。そして、乳幼児が大好きな人の膝の上に座って、人形劇や歌や楽器の演奏など、乳幼児向けにつくられたプロの作品を鑑賞します。その姿をそばで見ていると、人形や演者を見つめる食い入るようなまなざし、感動を体全体で表現するその愛らしさ、大好きな人たちと顔を見合わせて楽しさや喜びを分かち合う様子など、未だ言葉を持たない幼い人たちがこんなにも豊かな反応をするのかと、いや、幼い人たちだからこそ、こんなにも純粋に反応するのだと、いつも深い感動を覚えます。
 フォーラムでは、脳科学の専門家、小泉英明氏に記念講演をしていただきましたが、幼い時に五感を総動員して本物に触れる体験は、その後の生きる力を育む大切な体験であること、殊に創造に必要な熱いパッションを育むには、幼い時こそが重要な時期だという脳科学の立場からのお話は、幼い人たちの感動的な姿を見てきただけに、とても納得のいくものでした。
 アートスタートの魅力や意義を多くの方に知っていただき、その取り組みが全国各地に広がっていくことを願って、この紙面をお借りして、ご紹介させていただきました。

(おはなしポケットの会代表)
posted by 語り手たち at 00:03| 太陽と月の詩