2017年12月13日

12月のお話


片岡輝・文  花之内雅吉・絵

 旧式の熱はかりの水銀の線がぐんぐん上が
り、40の目盛りを越えそうな勢いです。
 「あらあら大変なお熱!すぐ、お医者さん
に来ていただかなくっちゃ」
 ママがあわててみつるの寝ている部屋から
飛び出して、スマホをかけに行きました。
 お部屋に飾ってあるクリスマスツリーが心
配そうにのぞきこんで、「昨日、ぼくをかざ
るのにがんばりすぎたからですよ。今夜、サ
ンタさんがやって来るまでに、注射を打って
もらって熱をさまさなくっちゃね」
 「あれっ? ツリーがはなしてる。もしか
して熱で夢をみてるのかな?」

                              2017年12月イラスト@.jpg
 
 ると、とつぜん、火のように熱いみつる
のからだが、宇宙飛行士のようにフワリと浮
き上がったかと思うと、果てしなく広い銀世
界の白い白い雪の中にみつるは立っていまし
た。
 雪がちっとも降ってこないので、サンタさ
んをのせたトナカイのそりが走ってこられな
いのじゃないかと心配していたみのるは、
 「やった! 雪だ。行きが降っている!」
 みつるは、うれしくなって、ちいさな子犬
のようにとびはねました。
 空のはるか高いところから、おどるように
舞い降りてくる雪と鬼ごっこしているうちに
いつしかみつるは林のなかに迷い込んでいま
した。

                            2017年12月イラストA.jpg                          

 細い木の枝につもった雪を指ではじくと、
雪のかたまりはロッケトよりも早く飛んで行
き、林のなかのお地蔵さんの背中に見事命中
しました。お地蔵さんがくるっと振り向いた
ので、みつるが、「あっ、ごめんなさい」と
あやまると、お地蔵さんだと思ったのは、み
つると同じ年頃の男の子で、クリスマスのパ
―テイでかぶるピエロのお面をつけていまし
た。    

                                         2017年12月イラストB.jpg


「ぼ、待ちきれなくって、サンタさんを
むかえにきたんだ。プレゼントには24色の
絵の具をたのんだんだ」
 「じゃあ、ぼくとおんなじだ! サンタさ
ん、間違えて12色を持ってこないかなあ?」
 そのとき、ダダダダダダ…エンジンの音が
して、スタッドタイヤをはいたオートバイが
丘の上に現れました。
 二人の目の前で、トナカイのシールをはっ
たオートバイから降りてきたのは、メガネを
かけたサンタさんでした。

                             2017年12月イラストC.jpg

「夜、枕もとにこっそり届けるのがきまり
なんだが、今日は特別大サービス。でも、このこ
とはここだけの秘密だよ」
 サンタさんは大きくふくらんだ靴下を、二人に
一つづつ渡すと、オートバイに乗って行ってしま
いました。
 靴下のなかには、24色の絵の具がちゃんと入
っていました。
 「あのサンタさん、どこかで会ったような気が
するぞ。あっ、そうだ、小児科のお医者さんだ!」
 二人は、ハーハーといきを吹きかけ、雪を
溶かし、絵の具をといて、真っ白い雪のカン
バスの上に絵を描きました。
 みつるは、クリスマスイルミネーションが
きらきらと輝く街を描きました。
 男の子は、駅とレールと列車を描きました。
レールは丘を越えて雪が舞う灰色の空まで続
いていました。
 「出発進行! ポッポー」
 男の子が乗った列車は、白い蒸気と黒い煙
をいきおいよく吐きながら、レールの上を走
って、やがて見えなくなってしまいました。
 みつるの熱が下がったのは、夜中のことで
した。みつるの枕もとには、ふくらんだ靴下
が約束通り、届いていました。   

   2017年12月イラストD.jpg                 



  

posted by 語り手たち at 00:32| Comment(0) | お話の国

2017年11月08日

11月のお話


夕焼の色は柿の色

片岡輝・文 花之内雅吉・絵


ばあちゃんが縁側でひなたぼっこをしながら毛糸で編み物をしています。のぶの手袋を編んでいるのです。のぶが、おばあちゃんのしわしわの手が編み棒を両手に持って、器用に毛糸を編んでいくのをあきずに見ていると、「のぶちゃん、たいくつでしょ。おばあちゃんがナゾナゾをだすからこたえてごらん。あ、わかるかな? 赤い顔して木の上に座っているモノなーんだ?」「あ、わかった! おさるさんでしょ」「ブー!、お庭をよーく見てみて」お庭をぐるっと見回すと、柿の木の枝に赤い顔をした柿の実が一つ、座っています。

           


2017年11月A.jpg



「なーんだ、柿の実のことか!」

「大当たり!のぶちゃんの誕生日のころになると、みーんな落ちてしまって、一つか二つきゃ残っていないわね」

お庭の柿の実は、渋柿です。お口がひんまがってしまうほど渋いので、だれも取って食べません。真っ赤に熟すと、自分の重さで、一つ落ち、二つ落ちして、だんだん枝がさびしくなってくるのです。

「ねえ、おばあちゃん、鳥たちも渋柿ってしってるのかな?」

「鳥さんたちもかしこいからね」


                               2017年11月@.jpg


庭には、すずめ、もず、むくどり、おなが、きじばと、からす…いろんな鳥たちがいれかわりたちかわり、やってきます。毎朝、のぶがまく、ごはんやパンくずを食べにくるのです。

そのなかに、一羽、右脚にけがをしたすずめがいて、

「チュピ! おはよう、ごはんですよ」のぶが呼ぶと、脚をひきずりながらピヨンピヨンピヨンとやってきて、おいしそうにえさをつつくのです。のぶはチュピがかわいくてかわいくてたまりませんでした。


の朝は、雨でした。のぶは、鳥たちのえさ箱がねれないように軒下におきました。でも、冷たい雨のせいか、鳥たちは一羽も姿を見せません。

「チュピ、いらっしゃい。ごはんですよ。たべないと、元気になれませんよ」いくらやさしい声で呼んでもチュピは姿を見せません。どこかでお腹をすかせて、ふるえながら雨宿りをしているのかと思うと、かわいそうでなりませんでした。

のぶは、おばあちゃんと、手袋のあまりの毛糸で、あやとりをして遊びました。


                                     2017年11月B.jpg


のう、一日中降っていた雨が、地面のあちこちに落ち葉で貼り絵を作りました。のぶが、えさ箱をお庭に運びだそうとした時でした。ぶどう棚の下に、ちいさな茶色のぼろきれのかたまりのようなものが落ちているのを見つけました。

「なにかしら? ぬいぐるみのお人形さんみたい…」

のぶは、近寄ってみて、思わず「あっ」と息をのみました。チュピのふっくらとしていた羽根が雨に打たれてべっとりとからだに張り付いて、小さく小さくなってチュピが死んでいたのです。のぶは泣きながらおうちに駆け込みました。

  

                     2017年11月C.jpg


「生きているものは、いつかかならず死ぬときがくるのよ。わたしにもね。チュピには今日がその日だったの」柿の木の根方に、おばあちゃんがチュピのお墓を作ってくれました。のぶは、チュピが寒くないように落ち葉の毛布を何枚も何枚もかけてやりました。

「天国にいったら、また元気にとびまわってね」

一つだけ残っていた柿の実が、チュピのお墓のそばに落ちてきました。柿のみの真っ赤な色に染まった空を見て、おばあちゃんがいいました。

「なんてきれいな夕焼でしょう! 明日はきっとすばらしい秋晴れですよ」


                  

       2017年11月D.jpg



posted by 語り手たち at 09:56| Comment(0) | お話の国

2017年10月11日

10月のお話

ススキの花嫁さん


片岡輝・さく 花の内雅吉・絵


 の太陽にやかれて、野原のみどりいろの洋服は、もうすっかり色あせて、黄色っぽくなっていました。林の木の葉っぱたちのなかには、はやばやとオレンジや赤や金色の秋のファシッョンに衣替えをすませたおしゃれさんも見られます。

 十造は、朝から宝探しで大忙しです。ズボンの4つのポケットは、クヌギやコナラのドングリでパンパンですし、シャツの胸ポケットには、いろとりどりの落ち葉がぎっしりつまっています。

 細い木の枝には、モズが突き刺したカマキリがミイラになっていました。十造がお墓を作ってカマキリを埋めて林からでてくると、あたり一面、真っ白い穂をつけたススキが秋の風とラインダンスを踊っていました。


2017年10月イラスト@.jpg


 十造が、逃げ回るススキの穂をつかまえようと、爪先立って手をのばしたとたん、いきおいあまって、ススキの上にひっくりかえってしまいました。

 「ククククク…」

 笑い声にハッとして、辺りを見回すと、ネコジャラシのげじげじひげをつけた女の子が目の前に立って笑っています。

 「きみだあれ? どこの子?」

 「わたし、かんな。十月の子よ」

 「ふ〜ん。ぼくも十月生まれ。十造っていうんだ」

 十造は、宝物のドングリをポケットから出して、かんなのためによく回るコマを作りました。おかえしに、かんなはハトムギの実で数珠玉の首飾りを作って、十造の首にかけました。

 「女の子がネコジャラシのひげをつけるなんておかしいよ。ほら、こっちの方がよく似合う」

 十造が、ススキの穂でかんざしを作って、かんなの髪にさすと、チャラチャラ…とすてきな音がしました。かんながつけていたネコジャラシのひげは、十造の鼻の下で、立派なちょびひげになりました。

 「かんなちゃん、はなよめさんみたい」

 「十造くんは、かんなのおむこさんね」 


2017年10月イラストA.jpg                              


次の日、ちいさな花婿さんは、お庭でコスモスをつんで、ちいさな花嫁さんに贈るかわいい花束を作りました。一緒にプレゼントする星の形をした金平糖を入れたマッチ箱が、ポケットの中でさっきからコロコロと弾んだ音を立てています。


2017年10月イラストB.jpg


 「かんなちゃん、どーこ?」

 十造の声が、ススキの原っぱを駆け巡ります。どんなちいさな物音でも聞きもらすまいと耳を澄ませても、「ククククク…」というかんなの笑い声は聞こえてきません。十造のほっぺに涙が2本の線を描きます。どこかでモズが、甲高く笑っています。

「おじいちゃん、かんなちゃんのお家をしらない?」

 おじいちゃんは、何を勘違いしたのか、

「神無月というのはな、日本中の神様が出雲の国にお集りになって、縁結びの相談をなさるんじゃ。神様がお留守になるので、神が無い月、神無月というんじゃよ。わかったかな? わからんじゃろうな」

 「わかってないのは、おじいちゃんのほうだい!」


2017年10月イラストC.jpg


 十造は、町の方へ走って行きました。途中で会ったお米屋さんのおじさんが、かんなの家を教えてくれました。                 

「こんにちは、かんなちゃんいますか?」

「ええ、おりますよ。かんな、あなたにかわいいお客様ですよ!」

 「あら、だれかしら?」

 花嫁姿のお姉さんが、奥から顔をだしました。角隠しの白さが十造の目にしみます。(あ、郵便局のおねえさんだ!)


十造は、だまってコスモスの花束と金平糖の入ったマッチ箱を花嫁さんに渡すと、後を振り向かずに駆けだしました。

 「きょうは、いそがしいな。もうひとつ、コスモスの花束をつくらなくっちゃ!」

 ススキのちいさな花嫁さんがみつかるといいですね。


2017年10月イラストD.jpg


posted by 語り手たち at 21:17| Comment(0) | お話の国