2018年02月19日

2月のお話

 銀河へ飛んだ樹々


片岡輝・文 

花之内雅吉・絵


 高い丘の上に建つ樹々の家の二階の窓から、まるでハリネズミの針ように、細くとがった枝を空に向けて背比べをしている雑木林が見えます。

 2月生まれの樹々の名前は、如月(きさらぎ)のき≠ニぎ≠とって、丘を取り巻く樹々の字を当ててつけられました。しっかりと大地に根を張って、たくましく育ってほしいというお父さんとお母さんの願いがこめられているのです。

 樹々は、さっきから空の雲に頼み事をしています。雲はいかにも困ったという顔して、「そりゃ無理というものですよ。いくらぼくが頑張っても昼を夜にすることはできませんね」


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々は、いつもより1時間でも1分でも早く夜にしてほしいと、雲に頼んでいたのです。

 リビングから、ケイタイでおしゃべりをしているお母さんの声が聞こえてきます。「2月って、ほんとにあっという間ね。2月のことを逃げる2月っていうんですってよ。あら、もうこんな時間!急いでお夕食の支度をしなくっちゃ。お宅のおかずはなーに?あら、うちもおなじにしようかしら

 お母さんが長話をしているうちに、空が暗くなって、樹々が首を長くして待っていた夜がやってきました。

             


 ごはんは、樹々の大好きなカレーライスでした。

 「あら、樹々ちゃん、お変わりは?」

 「もう、おなかいっぱい! ねえ、はやくかげえあそびしてよ、ねえ、はやく!」

 「あなた、ほんとにパパそっくりでせっかちなんだから。じゃあ、リビングの電気を消して日本間の障子の前に座ってちょうだい」

 樹々がスイッチを切ると、お母さんの姿は障子の向こう側に消えていて、「こんこんこんこんばんは」と、キツネがぺこりとおじぎをするのでした。

 「キツネさん、こんどはネコにばけてみせて」

樹々が頼むと


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ツネがくるんとでんぐりがえって、「にゃーおん」と、もうネコになっていました。

 ネコは、しっぽをぴんと立てて、キッチンの方へと歩いて行きます。

 「あ、カレーのおなべをなめちゃだめ!」

 すると、「うー、わんわんわん」イヌが飛び出してきて、ネコに大きな口をあけて吠えかかります。ネコはサッと姿を消しましたと、その時です。とつぜん、雲をつくような大男が現れ、今にもイヌを踏みつぶさんばかりに迫ってきます。樹々は、思わず大声で叫んでいました。「イヌをふまないで!」

 「ははははは、ぼくだよ。お父さんだよ。ただいまー」

 「おかえりなさーい! びっくりしちゃった」


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の夜、樹々はなかなか寝付かれませんでした。窓に映る影を見るともなく見ていると、「バサバサバサ」と何かが羽ばたくような鋭い音がして、大きな影がベッドに横になっていた樹々の上に覆いかぶさりました。

 「樹々ちゃん、さ、いそいでぼくの背中に飛び乗って!」

 樹々は跳ね起きると、翼を広げている夜鷹の背に飛び乗りました。

 樹々を乗せた夜鷹は、力強くはばたいて、星のダイヤモンドがきらめく夜空に向かって舞い上がりました。


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鷹が、ふわりと舞い降りたのは、金色に輝く月の上でした。クレーターの中からウサギが現れて、樹々とぴょんぴょんダンスを踊りました。月では、誰でもトランポリンの選手みたいに軽々と飛び上がることができます。

 樹々が調子に乗って月の砂漠を思いっきり蹴ると,体がぽわぽわぽわんと浮き上がり、まるで手がそれた手毬のようにとんでとんで、気が付くと、銀河のはずれに独りぼっちで浮かんでいるのでした。

 樹々が途方に暮れていると、星のかげからキツネやネコやイヌがあらわれ、けらけら笑いながら、おいでおいでと、手招きするのでした。


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2018年01月09日

1月のお話


ひゅういやろのお正月


片岡輝・文 

花之内雅吉・絵


ひゅういやろのの、ひゅういやろ、とうとうたらり、とうたらり……お正月になると、にぎやかなお囃子にのって、さんばっさんのお人形が薄暗いお宮の中からニコニコと笑いながら現れて、ツーンと鼻が痛くなるような冷たい風に吹かれて、ぶるぶると身ぶるいをしながら、まるでうなるような、うたうような声で、「まずまずお舞いたまえ……」とくりかえして踊る人形芝居を、お父さんの肩車に乗ってみるのが、睦子のお正月の楽しみでした。今日は、大晦日。明日は待ちに待ったお正月です。


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ころが、冬将軍が朝から暴れ始め、吹雪が強いので、街から山道を登って来る路線バスが運休になってしまったのです。睦子のお父さんは、山の仕事が暇な間は、街で働いていて、いつも大晦日にたくさんのおみやげといっしょに帰って来るのです。

 睦子は、窓ガラスに鼻のてっぺんを痛くなるほど強く押し付けて、お父さんを乗せたバスが峠を越えて走ってくるのではないかと、粉雪の分厚いカーテンの向こうをにらみつけています。


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ひゅういやろ、ひゅういやろ……上のお兄ちゃんが吹く笛の音が、吹雪の中に吸い込まれていきます。

 「この分だと、さんばっさんも今年はお休みになるかもしれんぞ」

お兄ちゃんは中学生で、さんばっさんのお囃子で笛を吹く係です。

 「お父さんも帰ってこれないし、さんばっさんもお正月も今年は来ないんだろうか?」

睦子がしょんぼりしていると、おにいちゃんがこんな話を聞かせてくれました。

 「昔、きこりが、さんばっさんの祭りに燃やす薪をとりに山へ入っていった。すると


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将軍が、おれたちを追っ払って春の女神を呼び寄せるとは、ふとどき千万。そんな祭りは吹き飛ばしてくれよう≠ニ、びゅうびゅうぼうぼう雪交じりの嵐を巻き起こし、きこりを凍え死にさせようと、やっきになって攻めて来たそうな。きこりは、腰まで雪に埋まりながら、しびれて、もうなんにも感じなくなった両手に斧をしっかりと握りしめて、がっきがっきと木の幹にさんばっさんの人形を彫っていったんだと。一番叟は美しい春の女神、二番叟は千年も万年も生きたおじいさん、三番叟は福々しい福の神さまであったんだと。きこりが、さんばっさんを彫り終えたとき、きこりは、もう雪ん中にすっぽりと埋まっていたそうな」


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「ね、それできこりはどうなったの? さんばっさんのおまつりはどうなったの」

 「きこりがさんばっさんを彫り終えたとき、冬将軍は、吹雪の詰まった袋の中身をぜーんぶ使い果たして、さんばっさんにはとてもかなわんと、しっぽをまいてにげていったんだそうな」

 「あー、よかった!」

 睦子は、すっかり安心して、こたつの中で眠りこんでしまいました。


ぎの朝は、吹雪もやんで、うそのように

 おだやかな元日でした。睦子が目を覚ますと枕元に新しい羽子板と、きれいな羽根が並んでいます。

 「あ、お父さんだ! さんばっさんが冬将軍を追っ払って、お父さんを連れて来てくれたんだ

!さんばっさん、ありがとう!」

 ひゅういやろうのひゅういやろう……お兄ちゃんが吹く笛に、鼓がとうとうたらりとうたらり……と、にぎやかに加わって、さんばっさんがお宮から出てきました。お父さんの肩車に乗った睦子が、「ありがとう」と、お辞儀をすると、さんばっさんが三人そろって春の笑いを辺りに振りまくのでした。


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2017年12月13日

12月のお話


片岡輝・文  花之内雅吉・絵

 旧式の熱はかりの水銀の線がぐんぐん上が
り、40の目盛りを越えそうな勢いです。
 「あらあら大変なお熱!すぐ、お医者さん
に来ていただかなくっちゃ」
 ママがあわててみつるの寝ている部屋から
飛び出して、スマホをかけに行きました。
 お部屋に飾ってあるクリスマスツリーが心
配そうにのぞきこんで、「昨日、ぼくをかざ
るのにがんばりすぎたからですよ。今夜、サ
ンタさんがやって来るまでに、注射を打って
もらって熱をさまさなくっちゃね」
 「あれっ? ツリーがはなしてる。もしか
して熱で夢をみてるのかな?」

                              2017年12月イラスト@.jpg
 
 ると、とつぜん、火のように熱いみつる
のからだが、宇宙飛行士のようにフワリと浮
き上がったかと思うと、果てしなく広い銀世
界の白い白い雪の中にみつるは立っていまし
た。
 雪がちっとも降ってこないので、サンタさ
んをのせたトナカイのそりが走ってこられな
いのじゃないかと心配していたみのるは、
 「やった! 雪だ。行きが降っている!」
 みつるは、うれしくなって、ちいさな子犬
のようにとびはねました。
 空のはるか高いところから、おどるように
舞い降りてくる雪と鬼ごっこしているうちに
いつしかみつるは林のなかに迷い込んでいま
した。

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 細い木の枝につもった雪を指ではじくと、
雪のかたまりはロッケトよりも早く飛んで行
き、林のなかのお地蔵さんの背中に見事命中
しました。お地蔵さんがくるっと振り向いた
ので、みつるが、「あっ、ごめんなさい」と
あやまると、お地蔵さんだと思ったのは、み
つると同じ年頃の男の子で、クリスマスのパ
―テイでかぶるピエロのお面をつけていまし
た。    

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「ぼ、待ちきれなくって、サンタさんを
むかえにきたんだ。プレゼントには24色の
絵の具をたのんだんだ」
 「じゃあ、ぼくとおんなじだ! サンタさ
ん、間違えて12色を持ってこないかなあ?」
 そのとき、ダダダダダダ…エンジンの音が
して、スタッドタイヤをはいたオートバイが
丘の上に現れました。
 二人の目の前で、トナカイのシールをはっ
たオートバイから降りてきたのは、メガネを
かけたサンタさんでした。

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「夜、枕もとにこっそり届けるのがきまり
なんだが、今日は特別大サービス。でも、このこ
とはここだけの秘密だよ」
 サンタさんは大きくふくらんだ靴下を、二人に
一つづつ渡すと、オートバイに乗って行ってしま
いました。
 靴下のなかには、24色の絵の具がちゃんと入
っていました。
 「あのサンタさん、どこかで会ったような気が
するぞ。あっ、そうだ、小児科のお医者さんだ!」
 二人は、ハーハーといきを吹きかけ、雪を
溶かし、絵の具をといて、真っ白い雪のカン
バスの上に絵を描きました。
 みつるは、クリスマスイルミネーションが
きらきらと輝く街を描きました。
 男の子は、駅とレールと列車を描きました。
レールは丘を越えて雪が舞う灰色の空まで続
いていました。
 「出発進行! ポッポー」
 男の子が乗った列車は、白い蒸気と黒い煙
をいきおいよく吐きながら、レールの上を走
って、やがて見えなくなってしまいました。
 みつるの熱が下がったのは、夜中のことで
した。みつるの枕もとには、ふくらんだ靴下
が約束通り、届いていました。   

   2017年12月イラストD.jpg                 



  

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