2018年01月09日

1月のお話


ひゅういやろのお正月


片岡輝・文 

花之内雅吉・絵


ひゅういやろのの、ひゅういやろ、とうとうたらり、とうたらり……お正月になると、にぎやかなお囃子にのって、さんばっさんのお人形が薄暗いお宮の中からニコニコと笑いながら現れて、ツーンと鼻が痛くなるような冷たい風に吹かれて、ぶるぶると身ぶるいをしながら、まるでうなるような、うたうような声で、「まずまずお舞いたまえ……」とくりかえして踊る人形芝居を、お父さんの肩車に乗ってみるのが、睦子のお正月の楽しみでした。今日は、大晦日。明日は待ちに待ったお正月です。


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ころが、冬将軍が朝から暴れ始め、吹雪が強いので、街から山道を登って来る路線バスが運休になってしまったのです。睦子のお父さんは、山の仕事が暇な間は、街で働いていて、いつも大晦日にたくさんのおみやげといっしょに帰って来るのです。

 睦子は、窓ガラスに鼻のてっぺんを痛くなるほど強く押し付けて、お父さんを乗せたバスが峠を越えて走ってくるのではないかと、粉雪の分厚いカーテンの向こうをにらみつけています。


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ひゅういやろ、ひゅういやろ……上のお兄ちゃんが吹く笛の音が、吹雪の中に吸い込まれていきます。

 「この分だと、さんばっさんも今年はお休みになるかもしれんぞ」

お兄ちゃんは中学生で、さんばっさんのお囃子で笛を吹く係です。

 「お父さんも帰ってこれないし、さんばっさんもお正月も今年は来ないんだろうか?」

睦子がしょんぼりしていると、おにいちゃんがこんな話を聞かせてくれました。

 「昔、きこりが、さんばっさんの祭りに燃やす薪をとりに山へ入っていった。すると


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将軍が、おれたちを追っ払って春の女神を呼び寄せるとは、ふとどき千万。そんな祭りは吹き飛ばしてくれよう≠ニ、びゅうびゅうぼうぼう雪交じりの嵐を巻き起こし、きこりを凍え死にさせようと、やっきになって攻めて来たそうな。きこりは、腰まで雪に埋まりながら、しびれて、もうなんにも感じなくなった両手に斧をしっかりと握りしめて、がっきがっきと木の幹にさんばっさんの人形を彫っていったんだと。一番叟は美しい春の女神、二番叟は千年も万年も生きたおじいさん、三番叟は福々しい福の神さまであったんだと。きこりが、さんばっさんを彫り終えたとき、きこりは、もう雪ん中にすっぽりと埋まっていたそうな」


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「ね、それできこりはどうなったの? さんばっさんのおまつりはどうなったの」

 「きこりがさんばっさんを彫り終えたとき、冬将軍は、吹雪の詰まった袋の中身をぜーんぶ使い果たして、さんばっさんにはとてもかなわんと、しっぽをまいてにげていったんだそうな」

 「あー、よかった!」

 睦子は、すっかり安心して、こたつの中で眠りこんでしまいました。


ぎの朝は、吹雪もやんで、うそのように

 おだやかな元日でした。睦子が目を覚ますと枕元に新しい羽子板と、きれいな羽根が並んでいます。

 「あ、お父さんだ! さんばっさんが冬将軍を追っ払って、お父さんを連れて来てくれたんだ

!さんばっさん、ありがとう!」

 ひゅういやろうのひゅういやろう……お兄ちゃんが吹く笛に、鼓がとうとうたらりとうたらり……と、にぎやかに加わって、さんばっさんがお宮から出てきました。お父さんの肩車に乗った睦子が、「ありがとう」と、お辞儀をすると、さんばっさんが三人そろって春の笑いを辺りに振りまくのでした。


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2017年12月13日

12月のお話


片岡輝・文  花之内雅吉・絵

 旧式の熱はかりの水銀の線がぐんぐん上が
り、40の目盛りを越えそうな勢いです。
 「あらあら大変なお熱!すぐ、お医者さん
に来ていただかなくっちゃ」
 ママがあわててみつるの寝ている部屋から
飛び出して、スマホをかけに行きました。
 お部屋に飾ってあるクリスマスツリーが心
配そうにのぞきこんで、「昨日、ぼくをかざ
るのにがんばりすぎたからですよ。今夜、サ
ンタさんがやって来るまでに、注射を打って
もらって熱をさまさなくっちゃね」
 「あれっ? ツリーがはなしてる。もしか
して熱で夢をみてるのかな?」

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 ると、とつぜん、火のように熱いみつる
のからだが、宇宙飛行士のようにフワリと浮
き上がったかと思うと、果てしなく広い銀世
界の白い白い雪の中にみつるは立っていまし
た。
 雪がちっとも降ってこないので、サンタさ
んをのせたトナカイのそりが走ってこられな
いのじゃないかと心配していたみのるは、
 「やった! 雪だ。行きが降っている!」
 みつるは、うれしくなって、ちいさな子犬
のようにとびはねました。
 空のはるか高いところから、おどるように
舞い降りてくる雪と鬼ごっこしているうちに
いつしかみつるは林のなかに迷い込んでいま
した。

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 細い木の枝につもった雪を指ではじくと、
雪のかたまりはロッケトよりも早く飛んで行
き、林のなかのお地蔵さんの背中に見事命中
しました。お地蔵さんがくるっと振り向いた
ので、みつるが、「あっ、ごめんなさい」と
あやまると、お地蔵さんだと思ったのは、み
つると同じ年頃の男の子で、クリスマスのパ
―テイでかぶるピエロのお面をつけていまし
た。    

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「ぼ、待ちきれなくって、サンタさんを
むかえにきたんだ。プレゼントには24色の
絵の具をたのんだんだ」
 「じゃあ、ぼくとおんなじだ! サンタさ
ん、間違えて12色を持ってこないかなあ?」
 そのとき、ダダダダダダ…エンジンの音が
して、スタッドタイヤをはいたオートバイが
丘の上に現れました。
 二人の目の前で、トナカイのシールをはっ
たオートバイから降りてきたのは、メガネを
かけたサンタさんでした。

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「夜、枕もとにこっそり届けるのがきまり
なんだが、今日は特別大サービス。でも、このこ
とはここだけの秘密だよ」
 サンタさんは大きくふくらんだ靴下を、二人に
一つづつ渡すと、オートバイに乗って行ってしま
いました。
 靴下のなかには、24色の絵の具がちゃんと入
っていました。
 「あのサンタさん、どこかで会ったような気が
するぞ。あっ、そうだ、小児科のお医者さんだ!」
 二人は、ハーハーといきを吹きかけ、雪を
溶かし、絵の具をといて、真っ白い雪のカン
バスの上に絵を描きました。
 みつるは、クリスマスイルミネーションが
きらきらと輝く街を描きました。
 男の子は、駅とレールと列車を描きました。
レールは丘を越えて雪が舞う灰色の空まで続
いていました。
 「出発進行! ポッポー」
 男の子が乗った列車は、白い蒸気と黒い煙
をいきおいよく吐きながら、レールの上を走
って、やがて見えなくなってしまいました。
 みつるの熱が下がったのは、夜中のことで
した。みつるの枕もとには、ふくらんだ靴下
が約束通り、届いていました。   

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2017年11月08日

11月のお話


夕焼の色は柿の色

片岡輝・文 花之内雅吉・絵


ばあちゃんが縁側でひなたぼっこをしながら毛糸で編み物をしています。のぶの手袋を編んでいるのです。のぶが、おばあちゃんのしわしわの手が編み棒を両手に持って、器用に毛糸を編んでいくのをあきずに見ていると、「のぶちゃん、たいくつでしょ。おばあちゃんがナゾナゾをだすからこたえてごらん。あ、わかるかな? 赤い顔して木の上に座っているモノなーんだ?」「あ、わかった! おさるさんでしょ」「ブー!、お庭をよーく見てみて」お庭をぐるっと見回すと、柿の木の枝に赤い顔をした柿の実が一つ、座っています。

           


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「なーんだ、柿の実のことか!」

「大当たり!のぶちゃんの誕生日のころになると、みーんな落ちてしまって、一つか二つきゃ残っていないわね」

お庭の柿の実は、渋柿です。お口がひんまがってしまうほど渋いので、だれも取って食べません。真っ赤に熟すと、自分の重さで、一つ落ち、二つ落ちして、だんだん枝がさびしくなってくるのです。

「ねえ、おばあちゃん、鳥たちも渋柿ってしってるのかな?」

「鳥さんたちもかしこいからね」


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庭には、すずめ、もず、むくどり、おなが、きじばと、からす…いろんな鳥たちがいれかわりたちかわり、やってきます。毎朝、のぶがまく、ごはんやパンくずを食べにくるのです。

そのなかに、一羽、右脚にけがをしたすずめがいて、

「チュピ! おはよう、ごはんですよ」のぶが呼ぶと、脚をひきずりながらピヨンピヨンピヨンとやってきて、おいしそうにえさをつつくのです。のぶはチュピがかわいくてかわいくてたまりませんでした。


の朝は、雨でした。のぶは、鳥たちのえさ箱がねれないように軒下におきました。でも、冷たい雨のせいか、鳥たちは一羽も姿を見せません。

「チュピ、いらっしゃい。ごはんですよ。たべないと、元気になれませんよ」いくらやさしい声で呼んでもチュピは姿を見せません。どこかでお腹をすかせて、ふるえながら雨宿りをしているのかと思うと、かわいそうでなりませんでした。

のぶは、おばあちゃんと、手袋のあまりの毛糸で、あやとりをして遊びました。


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のう、一日中降っていた雨が、地面のあちこちに落ち葉で貼り絵を作りました。のぶが、えさ箱をお庭に運びだそうとした時でした。ぶどう棚の下に、ちいさな茶色のぼろきれのかたまりのようなものが落ちているのを見つけました。

「なにかしら? ぬいぐるみのお人形さんみたい…」

のぶは、近寄ってみて、思わず「あっ」と息をのみました。チュピのふっくらとしていた羽根が雨に打たれてべっとりとからだに張り付いて、小さく小さくなってチュピが死んでいたのです。のぶは泣きながらおうちに駆け込みました。

  

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「生きているものは、いつかかならず死ぬときがくるのよ。わたしにもね。チュピには今日がその日だったの」柿の木の根方に、おばあちゃんがチュピのお墓を作ってくれました。のぶは、チュピが寒くないように落ち葉の毛布を何枚も何枚もかけてやりました。

「天国にいったら、また元気にとびまわってね」

一つだけ残っていた柿の実が、チュピのお墓のそばに落ちてきました。柿のみの真っ赤な色に染まった空を見て、おばあちゃんがいいました。

「なんてきれいな夕焼でしょう! 明日はきっとすばらしい秋晴れですよ」


                  

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