2017年09月12日

9月のお話

引き出しの中の海


                          片岡輝・文 花之内雅吉・絵


の間、あんなに元気よく磯の岩場の上で

走り回っていたフナムシたちは、いったいど

こにかくれてしまったのでしょう? そうい

えば、色とりどりの車に乗って街から海水浴

にやって来る人たちも、九月も半ばを過ぎる

とパタリと姿を見せなくなりました。すると

海の色までが急に明るさをなくして、どこか

よそよそしいのです。

 でも、ふみは、そんな誰もいない海が大好

きです。砂浜に置いてけぼりされたペンキが

はげちょろけになったボートによりかかって

寄せては返す波の音を聞いていると、ふみは

一度も聞いたことがないお父さんの声を聞く

思いがするのでした。


            引き出しの中の海9月@.jpg        


みのお父さんは、ふみが生まれた年の夏

の終わりの嵐の晩に、小さな船といっしょに

海に沈みました。だから、ふみは写真の中の

お父さんしか知りません。漁船の船長さんだ

ったお父さんは、釣り上げた大きな魚を手に

持って、白い歯をみせて笑っています。

 ふみのお母さんは、お父さんを海の底へ連

れていった海が大嫌いです。ふみが、ひがな

一日海辺にいて波の音を聞いていると、「お

まえも海にさらわれますよ」と、恐い顔をし

てにらむのです。でも、ふみは海がちっとも

こわくありません。だって、お父さんが住ん

でいるところなんですもの。




が南の方から近づいているのか、海のご

きげんがだんだん悪くなってきました。波と

鬼ごっこしていたふみは、頭から波しぶきを

かぶって、かんかんです。

 と、その時、男の子が白い裸馬にまたがっ

て、なぎさのかなたから矢のように走って来

るのを見たのです。

 男の子は髪をなびかせ、波を蹴散らしなが

ら疾風のようにやってきて、ふみの目の前で

ぬれた砂を跳ね上げたかと思うと、そのまま

まっすぐ沖へ向かって駆けて行き、みるみる

うちに、白い牙をむく荒波の中に姿を消して

しまったのです。


引き出しの中の海9月A.jpg


れは、ふみが声をあげる間もない出来事

でした。われにかえったふみは、渚を走って

走って、浜の権助じいさんのところへころが

りこみました。

「おじいちゃん、白い馬にのったおにいちゃ

んが、いま、沖の方へはしっていったの。は

やくたすけないと、死んでしまう」

 魚をとる網をつくろっていた権助じいさん

は、ふるえているふみをやさしく抱きしめな

がらこういいました。

 「そうか、白い馬に乗った男の子を見たか。

 その子を見たら、もう夏は終わりじゃ。まも

なく秋の嵐がやってくるぞ」


 引き出しの中の海9月B.jpg

  

みは帰り道、なぎさでたくさんの夏の思

い出を拾い集めました。

 おはじきにちょうどいい大きさをした巻貝

のキサゴを三つ。宝石のようにキラキラ光っ

ているホシキヌタ貝。小さな小さな貝殻が集

まっている砂浜では、花びらのようなサクラ

貝、うずら豆のような形のミゾ貝……。

 そして、なによりうれしかったのは、ふみ

の大好きなあんパンそっくりなヨツアナカシ

パンを見つけたことです。ヨツアナカシパン

は、ウニの仲間で、ほんとうにおいしそうな

形なんですよ。


 引き出しの中の海9月C.jpg


辺で集めた夏の思い出を、ふみは箱につ

めて、机の引き出しにしまいました。しまい

ながら、ふと、「白い馬に乗った男の子はい

ったい誰だったのかな? もしかしたら、あ

の子のお父さんも海の底にすんでいて、お父

さんに会いにいったのかもしれない。ふみも

海女さんのように海にもぐって、お父さんに

会いたいな」と、思いました。

 その晩は、権助じいさんのいったとおり、

秋の嵐になりました。窓をたたく激しい雨の

音でなかなか眠れないふみが、机の引き出し

をそっと開くと、夏の思い出たちがやさしい

子守唄を歌って、ふみを深い眠りの海へ連れ

て行ってくれました。夢の中で、お父さんに

会えるといいですね。 


引き出しの中の海9月D.jpg




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2017年08月15日

8月のお話

「おじぞうさんのぼうし」

片岡輝・文 花の内雅吉・絵

    きどき思い出したように吹いてくる風といっしょに、風鈴が夏のうたをうたいます。
  八郎は朝からギコギコ、ノコギリと格闘しています。大きな板は切られるのがいやなのでしょうか。だだをこねて逃げ回るので、ノコギリのはがあっちへひっかかり、こっちへひっかかり、なかなかしごとがはかどりません。それでもなんとか2枚は伐り終えて、あと1枚切ったら、こんどはトンカチでくぎを打つ番になるのです。八郎の頭の中には、もうしっかりと設計図が描かれいています。
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  り終えた3枚のいたを八郎はコ≠フ字型に組み合わせてくぎで打ちつけました。横っちょにはみ出したくぎの先も、とちゅうでく≠フ字に曲がってしまったくぎの頭も、トンカチでしっかりと打ち込みました。そのとき、八郎は左の人差し指をトンカチで思いっきりぶって、あずきほどの血豆つくってしまいました。でも、今日はべそひとつかきません。八月の太陽がぎらぎら笑っています。
  八郎はコ≠フ字型の板をかかえて路地を駆けぬけ、表通りの四つ角にやってきました。麦わら帽子の上にとんぼのアキアカネがとまっています。四つ角では、おじぞうさんがカンカン照りの太陽に焼かれて、八郎を待っていました。
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  「おそくなってごめんね。まいにち、あついなか、ありがとう。さあ、これをかぶってみて」
  設計図通り、コ≠フ字の木のぼうしはおじぞうさんの頭にぴったりでした。八郎が朝から汗だくでつくった木のぼうしをかぶって、おじぞうさんは涼しそうです。
  八郎が生まれた8月には、セミとり、スイカわり、ぼんおどり、縁日、花火大会、プール、山登り…と、楽しみがいっぱいで、毎日がまるで誕生日のようです。

  が夕日でまっかに焼けて、今日は待ちに待った縁日です。八郎が100円玉をしっかりとにぎりしめながら、四つ角のおじぞうさんの前を通り過ぎようとしてふと見ると、「あれ? 木のぼうしかぶってないぞ」
 でも、いまはそれどころではありません。
お宮のほうからㇷ゚―ンと縁日のいいにおいが八郎の鼻をくすぐります。
 「あとでさがしてあげるからね!」
 そういいのこすと、八郎は縁日へダッシュ。
 
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  電球に照らされて、ソース焼きそばがジュ―ジュ―とおいしそうな歌をうたい、焼きイカがダンスを踊っています。チョコバナナも綿あめも「おいでおいで」をしています。
ハッカあめの笛が「八郎くん、吹いてごらん、甘くってスース―するよ」と呼んでいます。
 でも、食べ物は食べてしまえばそれっきりです。「ライダーお面がいいかな? ヨーヨーもたのしそうだな…」と、あれこれ迷いながら行ったり来たりしているうちに、八郎は金魚すくいの前にでました。
 「へい、いらっしゃい」と、腰を浮かせたおじさんのお尻のしたに、おじぞうさんの木のぼうしがチョコンと椅子の代わりに置いてあるではありませんか。
 「あのー、それ…」と、八郎が指さすと、
 「まいど、ありー、100円いただきますよ」というわけで、薄い紙を張った網を2本もらい、八郎は金魚すくいにチャレンジすることになりました。


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  そうは、たくさんの金魚で満員電車なみの混みようです。八郎はとりわけ元気な出目金をねらうことにしました。でも、相手は一筋縄ではいかない大物です。1本目の網は見事に破られてしまいました。八郎が2本目の網ですくおうとしたとき、おじぞうさんが水槽の底にあらわれて、出目金を手招きしました。すると、出目金は急におとなしくなって、おじぞうさんの左手の上に横になりました。
  「いまだ!」八郎が出目金を見事にすくい上げたとき、おじぞうさんはもう姿を消していました。
 「わー、わしの可愛い出目金が…」
頭を抱えているおじさんを見ながら、おじぞうさんのぼうしをお尻に敷いたバチがあたったのかもしれないと、八郎は思いました。

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2017年07月19日

7月のお話


「ナナのアサガオ」


片岡輝・文  花の内雅吉・絵


なかのおじいちゃんが送ってくれた黒いタネから大きなアサガオの花が一輪咲きました。今日はナナの誕生日。つるの先にはバースデイケーキに立てるねじりロウソクそっくりなつぼみが、かぞえるとナナの年と同じ数だけ5つついています。

「おじいちゃんからのプレゼント、よかったわね」とママ。


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「パパがちいさかったときは、アサガオの花のみつをすいに飛んできたダンゴバチやミツバチが花の中にもぐりこむと、花びらすばやく手でつまんで、ハチたちを花の中にとじこめて遊んだものさ」

「ハチはどうなるの?」

「花の中でブンブンワンワンおおさわぎさ」

「さされないの?」

「さされるまえにパット花を開いて逃がしてやるのさ。たまにはさされることもあったなあ。さされたら、いそいでおしっこをつけるんだ。はれあがらないようにね」

「えーつ、おしっこ?」

「よくきくんだぞ。ハッハッハ…」


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パがおしごとにでかけてしばらくしてのこと、ナナがべそをかきながらとんできました。

「ママ、ママ、どうしよう?お花がしぼんじゃったの」

「アサガオは早起きでしょ。だからお日さまがまぶしくてしぼんだのよ。ナナちゃんに面白いことおしえてあげる。しぼんだ花をつんで、花の先を手でつまんで、根元のところから、息を吹き込んでごらんなさい。ポン!ってかわいい音を立ててはじけるわよ」


      2017年7月イラストBあさがおの色水.jpg

ナが思いっきり息を吹き込むと、風船ガムが破れた時のような音がして、しぼんだ花がはじけました。

「今度は、しぼんだ花を集めて、水を入れたコップの中で、ギュギュってしぼってごらんなさい。アサガオ色のすてきな色水ができるわよ」

色水はかんたんにできました。コップをとおして辺りを見ると、世界中がきれいなピンク色に染まっています。ピンク色の空、ピンク色の犬のシロ、ピンク色の弟のケンちゃん

…あ、ケンちゃんが大事なつぼみをむしり取ろうとしています!


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「だめ!ナナのお花とっちゃだめ!ほしかったらケンも自分でタネをまきなさい」

ナナナのけんまくに、ケンはびっくりして走っていってしまいました。

明日は七夕さまです。折り紙を切ってつくった短冊にナナはこう書きました。

「おほしさまにおねがい。あお、あか、ピンク、しろ、むらさき、きいろ、おれんじのはなをさかせてください」

アサガオには、きいろやオレンジの花は咲かないのにね。お星さま、きっと困るでしょうね。


 ぎの日の朝のこと。ナナがバースデイプレゼントにもらったママの手作りのゾウの枕を抱いて寝ていると、ケンが大声をあげながらとびこんできました。

「やったー!やったー!ぼくがまいたタネからおはながいっぱいいっぱいさいた!」

ナナがお庭に飛び出してみると、どこにも新しい花なんか見当たりません。

「ぼくね、きのう、アサガオのところにビー玉のタネをたくさんまいておいたんだ。そしたら、ほら、おはながいっぱい!」

ケンが指さす方を見ると、アサガオの葉っぱのあちらこちらに、まあるい朝露がお日さまの光を受けて、キラキラキラキラとひかり輝いておりました。


2017年7月イラストDあさがお.jpg



posted by 語り手たち at 08:44| Comment(0) | お話の国