2017年11月08日

11月のお話


夕焼の色は柿の色

片岡輝・文 花之内雅吉・絵


ばあちゃんが縁側でひなたぼっこをしながら毛糸で編み物をしています。のぶの手袋を編んでいるのです。のぶが、おばあちゃんのしわしわの手が編み棒を両手に持って、器用に毛糸を編んでいくのをあきずに見ていると、「のぶちゃん、たいくつでしょ。おばあちゃんがナゾナゾをだすからこたえてごらん。あ、わかるかな? 赤い顔して木の上に座っているモノなーんだ?」「あ、わかった! おさるさんでしょ」「ブー!、お庭をよーく見てみて」お庭をぐるっと見回すと、柿の木の枝に赤い顔をした柿の実が一つ、座っています。

           


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「なーんだ、柿の実のことか!」

「大当たり!のぶちゃんの誕生日のころになると、みーんな落ちてしまって、一つか二つきゃ残っていないわね」

お庭の柿の実は、渋柿です。お口がひんまがってしまうほど渋いので、だれも取って食べません。真っ赤に熟すと、自分の重さで、一つ落ち、二つ落ちして、だんだん枝がさびしくなってくるのです。

「ねえ、おばあちゃん、鳥たちも渋柿ってしってるのかな?」

「鳥さんたちもかしこいからね」


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庭には、すずめ、もず、むくどり、おなが、きじばと、からす…いろんな鳥たちがいれかわりたちかわり、やってきます。毎朝、のぶがまく、ごはんやパンくずを食べにくるのです。

そのなかに、一羽、右脚にけがをしたすずめがいて、

「チュピ! おはよう、ごはんですよ」のぶが呼ぶと、脚をひきずりながらピヨンピヨンピヨンとやってきて、おいしそうにえさをつつくのです。のぶはチュピがかわいくてかわいくてたまりませんでした。


の朝は、雨でした。のぶは、鳥たちのえさ箱がねれないように軒下におきました。でも、冷たい雨のせいか、鳥たちは一羽も姿を見せません。

「チュピ、いらっしゃい。ごはんですよ。たべないと、元気になれませんよ」いくらやさしい声で呼んでもチュピは姿を見せません。どこかでお腹をすかせて、ふるえながら雨宿りをしているのかと思うと、かわいそうでなりませんでした。

のぶは、おばあちゃんと、手袋のあまりの毛糸で、あやとりをして遊びました。


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のう、一日中降っていた雨が、地面のあちこちに落ち葉で貼り絵を作りました。のぶが、えさ箱をお庭に運びだそうとした時でした。ぶどう棚の下に、ちいさな茶色のぼろきれのかたまりのようなものが落ちているのを見つけました。

「なにかしら? ぬいぐるみのお人形さんみたい…」

のぶは、近寄ってみて、思わず「あっ」と息をのみました。チュピのふっくらとしていた羽根が雨に打たれてべっとりとからだに張り付いて、小さく小さくなってチュピが死んでいたのです。のぶは泣きながらおうちに駆け込みました。

  

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「生きているものは、いつかかならず死ぬときがくるのよ。わたしにもね。チュピには今日がその日だったの」柿の木の根方に、おばあちゃんがチュピのお墓を作ってくれました。のぶは、チュピが寒くないように落ち葉の毛布を何枚も何枚もかけてやりました。

「天国にいったら、また元気にとびまわってね」

一つだけ残っていた柿の実が、チュピのお墓のそばに落ちてきました。柿のみの真っ赤な色に染まった空を見て、おばあちゃんがいいました。

「なんてきれいな夕焼でしょう! 明日はきっとすばらしい秋晴れですよ」


                  

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2017年10月11日

10月のお話

ススキの花嫁さん


片岡輝・さく 花の内雅吉・絵


 の太陽にやかれて、野原のみどりいろの洋服は、もうすっかり色あせて、黄色っぽくなっていました。林の木の葉っぱたちのなかには、はやばやとオレンジや赤や金色の秋のファシッョンに衣替えをすませたおしゃれさんも見られます。

 十造は、朝から宝探しで大忙しです。ズボンの4つのポケットは、クヌギやコナラのドングリでパンパンですし、シャツの胸ポケットには、いろとりどりの落ち葉がぎっしりつまっています。

 細い木の枝には、モズが突き刺したカマキリがミイラになっていました。十造がお墓を作ってカマキリを埋めて林からでてくると、あたり一面、真っ白い穂をつけたススキが秋の風とラインダンスを踊っていました。


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 十造が、逃げ回るススキの穂をつかまえようと、爪先立って手をのばしたとたん、いきおいあまって、ススキの上にひっくりかえってしまいました。

 「ククククク…」

 笑い声にハッとして、辺りを見回すと、ネコジャラシのげじげじひげをつけた女の子が目の前に立って笑っています。

 「きみだあれ? どこの子?」

 「わたし、かんな。十月の子よ」

 「ふ〜ん。ぼくも十月生まれ。十造っていうんだ」

 十造は、宝物のドングリをポケットから出して、かんなのためによく回るコマを作りました。おかえしに、かんなはハトムギの実で数珠玉の首飾りを作って、十造の首にかけました。

 「女の子がネコジャラシのひげをつけるなんておかしいよ。ほら、こっちの方がよく似合う」

 十造が、ススキの穂でかんざしを作って、かんなの髪にさすと、チャラチャラ…とすてきな音がしました。かんながつけていたネコジャラシのひげは、十造の鼻の下で、立派なちょびひげになりました。

 「かんなちゃん、はなよめさんみたい」

 「十造くんは、かんなのおむこさんね」 


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次の日、ちいさな花婿さんは、お庭でコスモスをつんで、ちいさな花嫁さんに贈るかわいい花束を作りました。一緒にプレゼントする星の形をした金平糖を入れたマッチ箱が、ポケットの中でさっきからコロコロと弾んだ音を立てています。


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 「かんなちゃん、どーこ?」

 十造の声が、ススキの原っぱを駆け巡ります。どんなちいさな物音でも聞きもらすまいと耳を澄ませても、「ククククク…」というかんなの笑い声は聞こえてきません。十造のほっぺに涙が2本の線を描きます。どこかでモズが、甲高く笑っています。

「おじいちゃん、かんなちゃんのお家をしらない?」

 おじいちゃんは、何を勘違いしたのか、

「神無月というのはな、日本中の神様が出雲の国にお集りになって、縁結びの相談をなさるんじゃ。神様がお留守になるので、神が無い月、神無月というんじゃよ。わかったかな? わからんじゃろうな」

 「わかってないのは、おじいちゃんのほうだい!」


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 十造は、町の方へ走って行きました。途中で会ったお米屋さんのおじさんが、かんなの家を教えてくれました。                 

「こんにちは、かんなちゃんいますか?」

「ええ、おりますよ。かんな、あなたにかわいいお客様ですよ!」

 「あら、だれかしら?」

 花嫁姿のお姉さんが、奥から顔をだしました。角隠しの白さが十造の目にしみます。(あ、郵便局のおねえさんだ!)


十造は、だまってコスモスの花束と金平糖の入ったマッチ箱を花嫁さんに渡すと、後を振り向かずに駆けだしました。

 「きょうは、いそがしいな。もうひとつ、コスモスの花束をつくらなくっちゃ!」

 ススキのちいさな花嫁さんがみつかるといいですね。


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2017年09月12日

9月のお話

引き出しの中の海


                          片岡輝・文 花之内雅吉・絵


の間、あんなに元気よく磯の岩場の上で

走り回っていたフナムシたちは、いったいど

こにかくれてしまったのでしょう? そうい

えば、色とりどりの車に乗って街から海水浴

にやって来る人たちも、九月も半ばを過ぎる

とパタリと姿を見せなくなりました。すると

海の色までが急に明るさをなくして、どこか

よそよそしいのです。

 でも、ふみは、そんな誰もいない海が大好

きです。砂浜に置いてけぼりされたペンキが

はげちょろけになったボートによりかかって

寄せては返す波の音を聞いていると、ふみは

一度も聞いたことがないお父さんの声を聞く

思いがするのでした。


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みのお父さんは、ふみが生まれた年の夏

の終わりの嵐の晩に、小さな船といっしょに

海に沈みました。だから、ふみは写真の中の

お父さんしか知りません。漁船の船長さんだ

ったお父さんは、釣り上げた大きな魚を手に

持って、白い歯をみせて笑っています。

 ふみのお母さんは、お父さんを海の底へ連

れていった海が大嫌いです。ふみが、ひがな

一日海辺にいて波の音を聞いていると、「お

まえも海にさらわれますよ」と、恐い顔をし

てにらむのです。でも、ふみは海がちっとも

こわくありません。だって、お父さんが住ん

でいるところなんですもの。




が南の方から近づいているのか、海のご

きげんがだんだん悪くなってきました。波と

鬼ごっこしていたふみは、頭から波しぶきを

かぶって、かんかんです。

 と、その時、男の子が白い裸馬にまたがっ

て、なぎさのかなたから矢のように走って来

るのを見たのです。

 男の子は髪をなびかせ、波を蹴散らしなが

ら疾風のようにやってきて、ふみの目の前で

ぬれた砂を跳ね上げたかと思うと、そのまま

まっすぐ沖へ向かって駆けて行き、みるみる

うちに、白い牙をむく荒波の中に姿を消して

しまったのです。


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れは、ふみが声をあげる間もない出来事

でした。われにかえったふみは、渚を走って

走って、浜の権助じいさんのところへころが

りこみました。

「おじいちゃん、白い馬にのったおにいちゃ

んが、いま、沖の方へはしっていったの。は

やくたすけないと、死んでしまう」

 魚をとる網をつくろっていた権助じいさん

は、ふるえているふみをやさしく抱きしめな

がらこういいました。

 「そうか、白い馬に乗った男の子を見たか。

 その子を見たら、もう夏は終わりじゃ。まも

なく秋の嵐がやってくるぞ」


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みは帰り道、なぎさでたくさんの夏の思

い出を拾い集めました。

 おはじきにちょうどいい大きさをした巻貝

のキサゴを三つ。宝石のようにキラキラ光っ

ているホシキヌタ貝。小さな小さな貝殻が集

まっている砂浜では、花びらのようなサクラ

貝、うずら豆のような形のミゾ貝……。

 そして、なによりうれしかったのは、ふみ

の大好きなあんパンそっくりなヨツアナカシ

パンを見つけたことです。ヨツアナカシパン

は、ウニの仲間で、ほんとうにおいしそうな

形なんですよ。


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辺で集めた夏の思い出を、ふみは箱につ

めて、机の引き出しにしまいました。しまい

ながら、ふと、「白い馬に乗った男の子はい

ったい誰だったのかな? もしかしたら、あ

の子のお父さんも海の底にすんでいて、お父

さんに会いにいったのかもしれない。ふみも

海女さんのように海にもぐって、お父さんに

会いたいな」と、思いました。

 その晩は、権助じいさんのいったとおり、

秋の嵐になりました。窓をたたく激しい雨の

音でなかなか眠れないふみが、机の引き出し

をそっと開くと、夏の思い出たちがやさしい

子守唄を歌って、ふみを深い眠りの海へ連れ

て行ってくれました。夢の中で、お父さんに

会えるといいですね。 


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posted by 語り手たち at 22:12| Comment(0) | お話の国