2017年06月10日

6月のお話

「でんでんむしのひみつ」

片岡輝  絵・花の内雅吉



んでんむしは、いったいどこからやっててきて、どこへきえてしまうのでしょうか?雨が降ると、ふってわいたかのように姿をみせ、晴れるといつのまにかいなくなってしま

うのですから、まるで忍者みたいです。

 淳はでんでんむしが大好きです。誕生日が近くなって、テレビが「今日も全国的に雨でしょう」と放送ようになると、朝から庭をかけまわって、でんでんむしを集めてきます。

 淳の秘密の箱のなかには、親指みたいに大きいものから、ごまつぶのように小さいものまで、「ちゅうちゅうたこかいな、ちゅうちゅう…」と、14匹もいるんですよ。


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14匹を、レタスとキュウリでかっています。おかずのサラダをのこしておいて、ジーパンのポケットにつこんで秘密の箱まではこんでくるので、ジーパンはマヨネーズのしみだらけ。今日もポケットからとりだしてでんでんむしに食べさせようとしたとたん、あとをつけていたお兄ちゃんが、「みーつけた。なにかくしてんだ? …なーんだ、でんでんむしか。淳、秘密を教えてやろう。でんでんむしの正体は、宇宙人なんだ。背中にしょってる家は、ほんとは宇宙船なんだぞ。でもだれにもいうなよ」


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ういえば、でんでんむしの渦巻型の家は、お兄ちゃんの本で見たUFOの絵そっくりですし、つつくと引っ込める2本の角は、宇宙服のアンテナみたいです。

 「ぼく、14人も宇宙人を飼ってるんだ。だれにもわたさないぞ」と心に誓ったとき、「この2匹、ちょいとかりるぜ」と、キュウリでお食事中の〈ジャンボ〉と〈でかでか〉をお兄ちゃんがつまみ上げて、あじさいの葉っぱの上に並べました。

「なにするんだよ。かえしてよ」

 「とりゃしないよ。並べて競争させるのさ。宇宙人の大レース!」


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ぎの日は、梅雨にはめずらしく晴れたのに、淳の2つの眼から大雨が降りました。あんなに大事に飼っていた14匹がのこらずカラカラに乾いて死んでしまったのです。レタスもキュウリもしなびてころがっていました。

淳は、箱をかかえて庭へ飛び出すと、穴を堀りはじめました。

「ごめんね。ごめんね。いま、おはかにうめてあげるからね」

すると、お兄ちゃんがやってきて、淳の手をとめて、こういいました。


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「でんでんむしは宇宙人だって教えただろう。宇宙人はそんなにかんたんには死なないんだぞ。宇宙船を空に近いところに並べておくと、だれも見ていないときに宇宙へ帰っていくのさ」

 淳は、14匹のでんでんむしを、ベランダの塀の上に、ていねいに一列に並べ、「ぶじにうちゅうに帰れますように」とおいのりしました。

 夜から朝にかけて、雨が降りました。淳がベランダに出てみると、でんでんむしは、もう影も形もありません。そして、14匹を並べて置いた塀の上には、キラキラ光る14本の銀色の線が、不思議な形を描いて残されているのでした。


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2017年05月15日

5月のお話

「かぜとかけっこしたら」  文・片岡輝  絵・花之内雅吉

 

 さやかの家は、港町の丘の上にたっています。

そこはちょうど、かぜの通り道にあたっており、

春にはあたたかい南の国からの便りが、町一番に

届きます。今ごろは、北のつめたいかぜと南のあ

たたかいかぜがまるで陣取りごっこでもしている

かのように、この丘めざして吹いてきます。

夏になると、磯の香りを乗せた潮風とんできて、

さやかを海へ誘います。秋には、暴れん坊の台風

が落ち葉の手裏剣をとばして渦巻き忍法でせめて

きます。冬は冬で、鼻のてっぺんがツーンと痛く

なって、涙がでるほどつめたい北風が、お日さま

と鬼ごっこをするのです。

 さやかは、だから町のだれよりもかぜとなかよ

しです。名前だって五月のかぜのさわやかさから

とった、さやかなんですって。これはママから聞

いたはなしです。

  

5月の風.jpg


 さやかは、かぜたちが一年中でいちばんおしゃ

べりで、元気で、それでいてやさしい5月がだい

すきです。ほうら、耳をすませてごらんなさい。

うらの竹やぶで「サヤサヤサヤ」って、さやかを

呼んでいます。それなのに、どうしたことでしょ

う? いつもならすぐにとびだしてくるというの

に、今日はシーンと静かです。

 かぜたちがしびれをきらして、どこかほかへ遊

びに行こうとしたちょうどそのとき、ドアがいき

おいよくひらいて…


「ルルンブルブルブルン、ひこうきですよ!」

両手に風車を持ったさやかがとびだしてきて、

坂道へ向かって走りはじめました。


                両手に風車さやかの飛行機.jpg


 「かけっこならまけるもんか!」

 かぜたちがさやかをおいかけます。おいついた

かぜが、さやかの髪の毛を膨らませ、髪の毛がさ

やかの頭の上で、ダンスを踊ります。さやかをお

いぬいたかぜたちが、今度は向かいかぜになって

さやかの耳元で「ヒュンヒュンヒュン」とうなり、

風車をいきおいよく回します。

 坂道の両側で、つつじの花が応援しています。

のっぽの街路樹てっぺんではカラスが、電線には

スズメたちが並んで見物しています。


 さやかとかぜたちは、一気に坂を駆け下り、四

角にさしかかりました。あ、あぶない!よこから

ものすごいスピードで、男の子のジェット機がと

びだしてきて、「どっかーん!」



 

男の子とゴッツンコ.jpg


 二人の眼から星がとびちり、涙がこぼれ落ちま

した。車や自転車でなくてほんとうによかった!

 「ごめんね。ぼくがとびだしたばっかりにきみ

のかざぐるまをぺしゃんこにしてしまって…」

 見ると、ひだりのエンジンのプロペラがクシャ

クシャです。もうあんなにクルクルまわりそうも

ありません。かぜたちもすっかりしょげて、ソヨ

とも吹きません。

 「かわりにこれでゆるしてくれる?」

 男の子はピーピー草でつくった草笛をさしだし

ました。さやかの眼がまあるくなりました。


            すずめのてっぽう.jpg


 「どうやったらおとがでるの?」

 「おもいっきりいきをすいこんで、やさしくや

さしくふいてごらん」

 教わった通りに吹くと、さやかの息が、草笛を

「ピー」と鳴らしました。

 「うまいうまい、そのちょうし!」


 ピーピー草は、スズメの鉄砲ともいい、穂を取

ると茎が草笛になります。

 「ピーピーピー、ピッーピッーピー…」

 うれしくなったかぜたちが、草笛の音を元気い

っぱい5月の空へはこんで行きます。

 草笛のおれいに男の子にあげた風車も力いっぱ

い回ります。

 「サヤサヤ、ピーピー、サヤサヤ、ピー…」

 さやかは、5月のかぜがだいだいだいすきです。


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2017年04月12日

4月のお話

「タンポポのごあいさつ」     作・片岡輝  絵・花之内雅吉


  おるは元気な男の子です。もし、どこかの街でどろんこになって遊んでいる子を見かけたら名前を聞いてみてください。きっと、


「ぼく、かおるだよ」と答えて白い歯をだしてにこっと笑うことでしょう。


 かおるにかおるという名前がついたのは、かおるが四月に生まれたからです。四月には、まるでクレヨン箱をひっくり返したようにいろんな花がいっせいに咲き始め、春の香りが透き通った、とりわけやさしい風にのって、人びとの鼻をくすぐります。


 生まれたばかりの男の赤ちゃんをのぞきこんで、鼻の下をなが〜くしていたパパとママの鼻にも、花の香りがとびこみました。


「いいかおり! ほら、わたしたちの初めての赤ちゃん、これが木蓮のかおりですよ」

「木蓮か。うん、もくたろう、いや、れんたろうという名前にしよう!」

「あら、わたしは、かおるという名前にしようと、今、考えていたところよ。ね〜、かおるちゃん、かおるでちゅよね〜」

「ほぎゃ〜」


 こうして、かおるという名前がきまりました。名前のせいか、かおるは、花が大好きです。男の子だからって、花が好きになってはいけないなんてきまりはありませんものね。


 今日もかおるは朝からタンポポの花をさがしています。タンポポの花って、そりゃあ、いろんなところに咲いています。庭の片隅、道路のはじっこ、階段のコンクリートの割れ目から顔を出している頑張り屋もいます。


タンポポの花の茎を折ると、白いミルクのような汁が出ます。かおるがおそるおそるなめてみると、甘いようなちょっぴり苦いような味がしました。指と指のあいだにつけてこすると、ねばねばして糸をひきます。「ばか、りこう、ばか、りこう…」といいながら花びらを一つ一つむしって行くと、おばかさんかおりこうさんか、占うことが出来ます。ままごとの材料にだってなります。そんなタンポポで遊ぶのが、かおるは大好きでした。


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本目のタンポポを見つけたとき、赤いスクーターに乗ったおじさんがやってきて、「このへんのアパートに住んでる清水さんちを知らない?」とかおるに尋ねました。かおるはだまって首を横にふると、「しらなくて、ごめんなさい」というかわりに、タンポポの花を一本さしだしました。

「おう、タンポポか。子どものころを思いだすなあ。ありがとう!」

おじさんが胸のポケットにさすと、タンポポはまるで金メダルのようにキラキラとかがやきました。

赤いスクーターが角をまがって行ってしまうと、「そうだ! ぼく、タンポポをみんなにとどけよう!」かおるは、タンポポの花をにぎって、かけだしました。


ず、みっちゃんのお家です。キンコン…チャィムがなります。

「あら、かおるくん。みっちゃんはいま、ピアノのおけいこにいってるのよ」とおばあちゃん。かおるがタンポポの花をさしだすと、

「まあ、すてき! 花瓶にさしておきますね。あとで遊びにいらっしゃい」

 つぎは、お隣です。ビー・ビッビー。

「だれだと思ったら坊やかい。大人は忙しいんだからいたずらしてはいけないよ」

かおるの鼻先でピシャり、ドアが閉まりました。かおるは出しそびれたタンポポの花をポストに入れて次へ向かいました。

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ントントン。はげはげペンキの古い木のドアをノックすると、ギーツとドアが開いて、しらがのおばあさんが出てきました。


「おやまあ、かわいいお客様だこと。お客さんが見えるなんて、何年ぶりのことかしら。おじいさん、おじいさん、去年の春飛ばしたタンポポのたねが、きれいな花を咲かせて、かわいいお客さんを連れて帰ってきましたよ。さあさあ、どうぞおあがりくださいな」


 かおるが部屋に入ると、ガラス戸ごしに、庭一面に咲いているタンポポの花が見えました。庭では、おじいさんがタンポポの綿毛を春の空へむかって「ふうふうふう…」と、一心に飛ばしておりました。


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posted by 語り手たち at 00:14| Comment(0) | お話の国