語 り ― 対 面 と オ ン ラ イ ン 、 そ し て ハ イ ブ リ ッ ド
石 川 県 金 沢 市 井 上 裕 子
ア ン デ ッ シ ュ ・ ハ ン セ ン 著 『 ス ト レ ス 脳 』( 新 潮 社 ・ 2 0 2 2 ) の 中 に 、 興 味 深 い 箇 所 を 見 つ け た 。 コ ロ ナ 禍 の 中 、 デ ジ タ ル 機 器 を 通 し て 外 の 世 界 と 繋 が っ て い て も 、 世 界 中 の 多 く の 人 々 が ス ト レ ス や 孤 独 を 感 じ て い る と い う。 画 面 越 し で は 私 た ち の 社 交 欲 求 は 満 た さ れ な い よ う だ 。
精 神 科 医 の ハ ン セ ン は そ の 理 由 を 科 学 的 見 地 か ら 説 明 し て い る 。 鍵 と な る の が 鎮 痛 作 用 と 幸 福 感 を も た ら す エ ン ド ル フ ィ ン と い う 神 経 伝 達 物 質 。 ゴ リ ラ や チ ン パ ン ジ ー の 毛 づ く ろ い ( グ ル ー ミ ン グ ) は 、 群 れ の 中 で 社 会 的 絆 を 生 み 、 強 め る 働 き を す る こ と で 知 ら れ て い る が 、 こ の 時 、 エ ン ド ル フ ィ ン の 放 出 が 起 こ っ て い る の だ そ う だ。
一 方 、 人 間 の 場 合 、「 他 の 人 と 一 緒 に や る 」 こ と で も エ ン ド ル フ ィ ン は 放 出 さ れ 、 連 帯 感 が 生 ま れ る と い う 。 肝 心 な の は 、 複 数 の 人 間 が 同 時 に 同 じ 感 情 を 抱 き 、 物 理 的 に 接 触 す る と い う 点 で あ る 。 笑 う こ と や 踊 る こ と 、 ユ ー モ ア や 感 情 の こ も っ た 話 を 聞 く の は 効 率 の い い 進 化 型 グ ル ー ミ ン グ な の だ そ う だ 。 そ こ で は っ と 気 づ い た 。 語 り は 効 率 の い い 進 化 型 グ ル ー ミ ン グ な ん だ と…… 。
こ の 三 年 間 、 新 型 コ ロ ナ の パ ン デ ミ ッ ク に よ り オ ン ラ イ ン が 一 気 に 世 の 中 に 浸 透 し て い っ た 。 語 り の 世 界 に も 波 及 し た 。 デ ジ タ ル 機 器 と ネ ッ ト 環 境 が 整 っ て い れ ば 、 ど こ か ら で も 語 り の 会 に 参 加 で き る 。 国 内 外 を 問 わ な い 。 何 と 便 利 な 世 の 中 に な っ た の だ ろ う 。 情 報 通 信 技 術 の 進 化 に 感 謝 で あ る 。
し か し 、 オ ン ラ イ ン の 語 り は 進 化 型 グ ル ー ミ ン グ の 条 件 を 満 た し て い な い 。 オ ン ラ イ ン (Zoom ) の 場 合 、 語 り 手 は 画 面 中 央 に 映 る 自 身 の 顔 を 見 な が ら 語 る 。 画 面 の 隅 に ギ ャ ラ リ ー の 顔 が 映 し 出 さ れ て い て も 、 聞 き 手 の 反 応 は 捉 え に く い 。 ギ ャ ラ リ ー の カ メ ラ を オ フ に 、 音 声 を ミ ュ ー ト ( 消 音 ) に さ れ る と な お さ ら で あ る 。 ま た 、 ハ イ ブ リ ッ ド ( 会 場 と オ ン ラ イ ン の 併 用 ) の 場 合 、 オ ン ラ イ ン で 参 加 し て い る 語 り 手 や ギ ャ ラ リ ー は 会 場 の 雰 囲 気 を 肌 で 感 じ る こ と は で き な い 。 私 た ち は 五 感 を 通 し て 物 事 を 認 識 す る 。 画 面 越 し で は 五 感 は 満 た さ れ な い 。 対 面 で の 語 り こ そ 、 語 り 手 と 聞 き 手 の 間 に 何 ら か の エ ネ ル ギ ー が 反 応 し 合 い 、 連 帯 感 が 生 ま れ る の で は な い だ ろ う か 。 不 安 定 な グ ロ ー バ ル 時 代 を 生 き る 私 た ち は エ ン ド ル フ ィ ン を 放 出 す る 進 化 型 グ ル ー ミ ン グ を 意 識 的 に 取 り 入 れ る 必 要 が あ る の か も し れ な い 。
( 語り手たちの会 国際・交流事業担当理事)
posted by 語り手たち at 16:36|
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